楽天モバイルでは6月から3年契約の内容を強化している(撮影:風間仁一郎)

キャリア(通信事業者)各社の「2年縛り」に批判の声もある中、3年間という長期の囲い込みをしていいのか――。

現在、格安のMVNO(仮想移動体通信事業者)の楽天は、2019年10月から自前で通信網を持つMNO(移動体通信事業者)になる予定だ。MNOのサービス開始時に、MVNOの利用者に移ってもらうことで、顧客基盤の確保を狙う。150万人(2018年1月時点)のMVNO利用者を、MNO開始時までに300万人に増やす目標も掲げる。

大半の人が3年契約を選ぶ

「通常は月額2980円(税別)のところ、最初の2年間は1480円でお使いいただけます」。夏商戦の最中の7月上旬、都内の楽天モバイルの店舗に客として訪れると、店員からは割引額が断トツに大きい3年契約を強く勧められた。楽天は6月から従来より3年契約の内容を強化している。

3年契約で月額1480円になるプランは、主力の「スーパーホーダイ」のプランS(月のデータ容量が2ギガバイト、10分以内の通話は無料でかけ放題)で、割引の内容は次のとおりだ。同社がベースとする割引前の料金は月額2980円。ここから、誰でも無料登録できる楽天会員になれば500円の割引になる。さらに、2年契約を選べば500円引きで1980円に、3年契約ならば1000円引きで1480円になるという形だ。

割引の適用期間は最初の2年間で、3年目以降になると2980円に戻る。楽天は、契約期間中に解約した利用者には、9800円の違約金を課す。ただ、3年契約とその他では金額の差が大きいため、店員によると大半の人が3年契約を選んでいるという。

通信業界では、契約期間の長さによって料金に大きな差をつけ、より長期の契約に誘導する販売手法が定着している。大手キャリアのNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの3社はそろって、2年契約を前提とした売り込みをしている。期間拘束のないプランとは大幅な料金差があるため、利用者には2年契約以外の選択肢がないに等しい。

期間中に解約すると、各社とも一律で9500円(税別)の違約金を課す。これが多くのユーザーが直面する、キャリアの2年縛りだ。しかも、2年契約終了直後の25、26カ月目に解約をしないかぎり、この2年縛りのプランは自動更新されてしまう。

KDDIとソフトバンクは昨年秋から、通信の契約時に高額なiPhoneの端末代を「半額」にする代わりに実質的に4年契約を結ばせる、「4年縛り」も展開する。iPhoneの端末代を半額にする条件として、2年契約終了時のiPhone端末の返却に加えて、通信の2年契約プログラムの継続を盛り込む手法だ。

3年縛りに対する総務省の見解

利用者は契約時に結んだ最初の2年契約に加え、更新継続の2年契約の計4年間をまっとうしなければ、契約時に値引かれたiPhoneの端末代を含む高額の請求をされる。今のところキャリアが自主的に、こうした売り方を根本的に改めようとする動きはない。


楽天モバイルの店内には「2年間ずっと1480円〜」という文言が大きく掲示されている(記者撮影)

ただ、総務省や公正取引委員会が長期契約の拘束を問題視していることもあり、キャリア3社の通信契約は現在、最長で2年まで。iPhoneの実質4年縛りも実際の拘束期間はともかく外形上は、2年契約の更新で計4年という仕組みにしている。3年契約を展開しているのは、楽天1社のみだ。

6月に行われた楽天の夏商戦発表会で、大尾嘉宏人執行役員は「総務省の指摘は(2年縛りの)自動更新で利用者の選択を狭めることについてで、長期契約に対してではないと理解している」と述べた。楽天は契約の自動更新はしていない。

総務省の料金サービス課に問い合わせると、2年縛りや4年縛りと同様に、今の時点で法的に直ちに問題にはならないという。一方で、総務省の担当者は「利用者の観点から考えれば、3年間の期間拘束のあるプランに入ることがどんな意味を持つのか、店頭でしっかり説明をするのが望ましいだろう」と見解を示す。

楽天の店舗に客として訪れたときに店員から示された注意点は、途中解約には違約金があることくらいだった。説明方針について楽天モバイル事業マーケティング・ユーザーエクスペリエンス課の鈴木暁・シニアマネージャーは「『還元額がいちばん大きいのは3年契約』という営業トークはしつつも、最低利用期間や違約金についてはしっかり伝える方針でやっている」と話す。

求められる消費者の冷静な判断

長期契約とセットの違約金は、割引の対価として一見、正当性があるようにも思える。こうした手法は通信業界に限らず、他業界でもよくある。ただ、総務省の担当者は「iPhoneの登場前と登場後とで世界が変わったように、通信業界は変動スピードが速く、先が読めない」と通信業界固有の状況について指摘する。


6月に行われた夏商戦発表会の様子(記者撮影)

そのうえで、「今後、もし他社がよりよいサービスや商品を出してきても、契約期間中ならば利用者は違約金で動きにくい。利用者第一で考えれば、3年という期間拘束をする以上、こうした点も説明してほしい」(同)と言うが、楽天の店頭で具体的なデメリットの話はいっさいなかった。

それだけではない。MNOとしての携帯電話事業は、周波数帯が必要なこともあり、参入障壁が極めて高い。MNOに回線を借りる形でMVNO各社も事業を営んでいるが、構造的には寡占が起きやすい業界といえる。そうした業界で各社が、利用者を長期契約に誘導して違約金で縛り付ければ、寡占化が一層進む可能性がある。その結果として、通信料金の高止まりにもつながりかねない。

総務省が今年4月、携帯電話事業に使う周波数帯の取得を楽天に許認可した背景には、キャリア3社が9割のシェアを持つ状況を打破して、競争を活性化してほしいという期待があった。ただ楽天の3年契約からは、MNOサービスを始めたときにMVNOから利用者を移行させることで顧客を確保する、という狙いが透けて見える。楽天の「囲い込み」姿勢は、総務省の方針に沿ったものには見えない。

2020年には次世代通信規格である5Gの商用化が予定され、通信業界は今も激流の真っただ中にある。3年契約やiPhoneの4年縛りは一見「お得」に思えるが、本当にその契約を選んで大丈夫なのか。利用者には、セールストークに惑わされない冷静な判断が求められている。