15、16日と2日間にわたって行なわれたオールスター。前半戦の主役たちによる豪華競演に心躍るなか、セ・リーグ投手陣の顔ぶれに寂しさを感じたヤクルトファンは少なくないだろう。"投手王国"を築きつつあるDeNAの投手が4人並んだ一方で(山口は負傷で出場辞退)、ヤクルトの投手は監督推薦で滑り込んだ秋吉ただひとり。前年リーグ覇者の苦しい台所事情がありありと見えた。

 ヤクルト投手陣の防御率は、オールスター前の80戦を終えた時点で、セ・リーグ平均の3.78がはるか遠い4.90と最下位。5位の阪神でさえ3.64のため、平均を下回るのはヤクルトのみとなっている。昨シーズンをチーム防御率3.31でまとめた投手陣が、なぜここまで壊滅的な状態になってしまったのか。かつて、ヤクルトの黄金期を支えたエース・石井一久氏に話を聞いた。

「優勝するときは、選手みんながある程度ピークを迎えて頑張れているんですよ。ここでいうピークというのは、歳を重ねた成長のピークというわけではなくて、『この選手の技術、能力ならば、最高でこれくらいできるだろう』という成績のピーク。去年は、山田哲人、川端慎吾、畠山和洋といった打撃陣だけじゃなく、投手たちもある程度ピークに近いところでシーズンを戦えていました。

 でも、どんなに調整を頑張っても、2年連続でそこにもっていくのはかなり難しい。先発投手陣は3人に1人くらい調子がよければ何とかやっていけるんですけどね。ここまで軒並み調子を落とすというのは珍しいですよ」

 確かに昨シーズンも、自己最多タイの13勝を挙げたベテラン・石川雅規と11勝した若きエース・小川泰弘の2本柱が、先発投手陣を支えているという印象が強かった。それでも勝ちを積み重ねられたのは、強力な救援陣の支えによるもの。特に、ロマン、オンドルセク、バーネットの"外国人トリオ"がリードした場面で出てくると、「もう決着はついた」という雰囲気が漂うほどだった。

 しかし今シーズン、外国人トリオでチームに残ったのはオンドルセクのみ。特に、セーブ王を獲得したバーネットがいなくなったことで、先発投手に与える心理的不安を指摘する声もあるが、石井氏は「気持ち的に影響はないと思いますよ」とあっさり答える。

「先発投手はあくまで自分の仕事をするだけですから。少なくとも僕はそう思っていましたね。ただ、『6回まで先発が抑えればなんとかなる』というゲームプランを立てられなくなったチームの首脳陣としては大きな問題。先発陣に長いイニングを任せることも増えますから、必然的に防御率が悪くなる危険性は高まることになります」

 救援陣が手薄になって投げるイニングの増えた先発陣が打ち込まれる。先発陣が調子を落として早々に交代するようになり、救援陣の負担が増す。そんな悪い循環を断ち切るには「長いイニングを投げられる先発の立て直しが第一」とのことだが、前半戦で改善の兆しが見えなかった先発陣には何か"変化"が必要なのだろうか。

「これも僕の場合はですけど、何かを変えるということはありませんでした。調子が上がらないのにはいろんな理由がありますから、一概にこういった方法をとればよくなるというのはない。自分の体ときちんと向き合いながら、中5日や中6日の休みのなかで、投げる時間を増やすのか、逆にケアの時間にまわすのかという見極めが大事なんです。

 コーチに聞いて、自分では気づいていなかったことを『こうなってるんじゃないか』って指摘してもらうのも重要。でも、選手自身が自分の体を分析することを怠っていたら、仮にコーチからアドバイスをもらった直後はよくなったとしても、それを継続することは難しいですから」

 ケガの功名ではないが、オールスター期間中に自分と向き合う時間をたっぷりとれたヤクルト投手陣。そのなかから、後半戦の救世主となる選手が現れるかもしれない。

 昨シーズンのヤクルト救世主といえば、ケガからの復帰を果たした館山昌平の存在が大きかった。6月に1019日ぶりの勝利を挙げてからの連勝で、夏場で疲れが見えはじめたチームを勢いづけた。現在は最下位と状況は違うが、これからチームを押し上げてくれる選手は果たして誰になるのだろうか。

「後半戦で期待するのは、やはり5年ぶりに1軍に復帰した由規ですね。球速は150キロくらい出ていますし、追い風になるような存在になってほしい。あとは、村中恭兵もキーになると思います。ここ2、3年は思うように投げれていなくて、今も安定感はまだまだですが、いいときの状態に戻ってきている。中継ぎから先発に戻って、これから面白い働きをするんじゃないでしょうか。

 杉浦稔大も球のキレ自体はいいし、小川もエースの働きができているとはいえないけど、1年ローテでまわっていければ十分な成績が残る投手。なんせ打線がいいですから、先発陣にある程度のメドがつけば巻き返しのチャンスは十分にあります」

 チーム打率は.266で、首位の広島(.272)に次ぐ2位。あらゆる打撃部門のトップに君臨する山田、川端、バレンティンといったおなじみの顔ぶれに加え、打撃好調の大引啓次、オリックスから加入した坂口智隆もヒットを量産している。しかし、失点が多い試合がこれからも続くと、頼みの野手陣たちが先に息切れしてしまいそうだが......。

「ヤクルトの野手陣には、そういうストレスが溜まっていないんです。溜めない選手が多いといったほうがいいかな。失点が多い試合が続くと『何点取れば勝てるんだよ』と嫌気がさす選手が出てきたりするものですが、ヤクルトは逆に『ピッチャーが点を取られるなら取り返してやろう』という、"補う気持ち"が強くなるんですよ。野手と投手の間に不穏な空気が流れないというのは、ヤクルト特有の強さなんじゃないかなと思いますね」

 首位・広島の背中は遠いが、3位のDeNAまでの差はわずか3.5ゲーム。好調野手陣がチームを支え、そのうちに投手陣が調子を上げることができれば、クライマックスシリーズ出場は十分にありえる。下剋上からのリーグ連覇に向け、ヤクルトの逆襲が始まる。

和田哲也●文 text by Wada Tetsuya