秀岳館vs花咲徳栄

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好球必打に徹した秀岳館

九鬼 隆平選手(秀岳館)

 試合前に注目したのは花咲徳栄の左腕、高橋 昂也(3年)がどんなピッチングをするか、だった。投げ始めて、おや?と思ったのは投球フォームが以前と違って見えたこと。どんな投げ方になったかというと、巨人の山口 鉄也によく似ている。テークバックのあと、前肩が開かないように右側面を打者に向かって押し出していくような投げ方になっていたのだ。以前はこれほど極端に誰かに似ているということはなかった。

 このフォームが影響しているのかどうかわからないが、この日のストレートのスピードは自己最速146キロに遠く及ばない139キロ。肩が開かないことを最優先に考え、腕を振ることを二の次にするようなフォーム改造が裏目に出たとしかいいようがない。

 変化球は横ブレの少ない縦変化のカーブ、スライダーの角度が素晴らしく、1回裏は変化球で先頭打者から三振を奪ったが、ストレートにキレがなければ変化球が生きないのはプロも高校生も同じ。3回には5本の長短打を集められ5点を失い、これで勝負の流れはほぼ決まった。

 秀岳館打線はミート打法を徹底した。目をみはったのは3番・木本 凌雅(2年)、4番・九鬼 隆平(3年)に代表されるバッティングの形で、2ストライクを取られると途端にノーステップに切り替え、ミートに徹するのだ。3回裏、一死一、二塁で打席に立った木本が打ったファールは4本。粘って四球で出塁して一死満塁になると次打者の九鬼はファール、ボールからの3球目の真ん中ストレートをコンパクトに振り抜いて左中間を破る二塁打で2者を迎え入れた。

 次打者以降も好球必打に徹して5点を奪い取るのだが、この回に放ったファールは合計13本で、見逃しのストライクは30球中わずかに1個。これほど秀岳館の粘りを表すデータはない。ゲーム全体で見ると秀岳館のファールの総数は158球中(8イニング)47個に達し、花咲徳栄の135球中9イニング)25個を大きく引き離した。ファールを狙ったわけではないと思うが、追い込まれたあとのミート打法の徹底は高橋昂を精神的にも肉体的にも追い込んだことは間違いない。

 花咲徳栄の敗因は他にもいろいろ挙げられるが、その中でも顕著だったのは守備陣の“球際の弱さ”だろう。もう少しで手が届きそうなのに早々とあきらめヒットにしてしまった打球が散見できた。

 たとえば3回、松尾 大河の中前打は遊撃手・岡崎がもっと追わなければならなかった打球で、次打者・原田 拓実の左前打は三塁手・楠本 晃希がもっと執着しなければならなかった打球だ。2人以外でももっと追えるだろうという打球がいくつかあった。私の中では花咲徳栄はもっと粘りのある嫌らしいチームだが、この日は別人のような意気消沈ぶりで、敗退続きの北関東勢の孤塁を守れなかった。

 プレー以外では4回裏、秀岳館が二死二塁の場面で、球審がゲームを中断して二塁走者と、ベンチの鍛冶舎巧・秀岳館監督に注意を与える場面があった。サイン盗みのような動きが二塁走者にあったためで、選手に注意を与えることはあってもベンチの監督に注意を与えることは極めて異例だ。

 まして鍛冶舎監督はNHKの甲子園大会の解説でもおなじみで、いわゆる“大物監督”である。注意を与えた球審にも相当の覚悟がないとできない行為だ。それだけこの問題に対する日本高等学校野球連盟(高野連)の真剣度の高さがうかがえ、興味深かった。

 試合は8回に花咲徳栄打線が爆発して3点を奪い1点差まで迫ったが、3回の大量失点が響いて一歩手が届かなかった。これで関東勢は常総学院、桐生第一、関東一、花咲徳栄が敗退して、残るは東海大甲府、木更津総合の2校になった。

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