勝負師の指揮官vsバッテリー!神経戦の行方は・・・

 まず本題に入る前に、今大会から設置されたドリームシートは3月22日から3日間は大阪と兵庫の高校球児が招待されている。彼らに、このゲームの面白さがどんな風に見えただろうか!

 試合後の両チームの取材時間。明石商の挾間善徳監督と、日南学園の森山 弦暉(3年)、萩原 哲(3年)の三人に話を聞き、さらにこのゲームの心理戦を感じたので少し紹介したい。

 まずは日南学園のエースで主将・森山に聞いたのが8回裏にスクイズで勝ち越された場面。一死三塁のピンチで、明石商の2番・大西 進太郎(3年)に2ボールからの3球目を決められた。ここでの大西に仕草と打者としての性格から、スクイズを読めていたことを明かした森山。その上で、「(左投手だが)三塁ランナーが走ったのは見えました。ただ、外しきれるだけの制球力はなかった」と悔やんだ。キャッチャーの萩原も補足する。「(2ボールだったので)四球でも良いという考えもあったが、次の打者(3番・橋本 和紀=3年))には6回にタイムリーを打たれているので、このバッターで抑えたいと思った。スクイズで1点を取られたとしても、まだ自分たちには9回の攻撃がある。それよりも四球で一、三塁になって橋本君に長打を浴びて2点や3点を取られる方が嫌だった」。

 結果として萩原のコメントは当たり、最少失点に抑えたことで9回の攻撃で同点の追い付くことができた。

 次に萩原に聞いたのが1点をリードしていた6回に二死二塁から橋本にライト前へ運ばれた場面。このイニング先頭の9番・大田 亮佑(3年)にヒットを浴びたが、続く1番・後藤 壮人(2年)の送りバントを処理した森山が二塁へ投げてアウトにした。フィールディングが良い森山の評判を確かにした瞬間だった。だが挾間監督は2番・大西にも二死覚悟の送りバントを指示。今度は転がったコースが良く、処理をした萩原は一塁へ投げざるを得なかった。

 二死二塁となり、萩原は自分の意思でタイムをとって内野陣を集めた。「(金川豪一郎)監督からは、1回目だけは自分達の判断でタイムをとることを許してもらっている。2回目からのタイムは監督からの指示です」と明かした。

 タイムが明け、3番・橋本にストライク、ボール、ボール、ボールと4球全て外角に構えた萩原。次の5球目、もう一度外角に構えた萩原だったが、森山の投じたボールは内角へ。やや甘くなって真ん中に入った所を痛打された。この局面、外に構えて内に入れたのか、それとも単純なコントロールミスだったのかがわからなかったにで質問してみると、萩原はこう答えてくれた。

 「外中心というのは明石商の監督もわかっていたと思うし、後半から逆方向を意識したバッティングをしてきていた。それで外に構えるフリをして内に投げるようにしました」。

 投げた森山も「内に入れるつもりでした。でもちょっと甘くなってしまった」と話し、バッテリーの意思疎通ができていたことを強調した。

 最後は9回裏のサヨナラの場面。

 明石商は一死から5番・松下 雄大(3年)がヒットを放つと、続く6番・吉高 壯(3年)は当然送りバント。6回に一度二塁で刺していた森山は、自信を持って送球したが、今度はセーフになってしまった。挾間監督がフィールディングの良い森山の心中を利用して、松下のスタートを早めにしたことが幸いした瞬間。このスタートはサヨナラスクイズにも繋がる。

 森山が悔やんだのはこの後の7番・藤原 祐介に与えてしまった死球で一死満塁にしたこと。ここで一つアウトを取れていれば二死になり、9回でのサヨナラスクイズはありえなかった。 一死満塁で、挾間監督は打席の8番・藤井聖也にスクイズをさせることを考える。ボール、ストライクの後の3球目、ついにスクイズのサインを出した。ここでも三塁走者が走ったことに気付いた森山はすぐにバント処理へ向い、完璧な送球で本塁へ投げた。普通ならば確実にアウトを取れている。しかし松下のスタートが抜群に早かった。この裏側には挾間監督の事前分析の成果がある。

 「森山君は左ピッチャー。普通はランナー三塁で足を上げた時に、キャッチャーはランナーを見て立つんです。でも森山君の時に、キャッチャーの萩原君はランナーを絶対に見ないんです。だから(三塁)ランナーには思い切ってホームに来いと指示をしてました。普通のスタートならば絶対にアウトになっています」。

 挾間監督の話を聞く限り、森山のフィールディングが良すぎ、しかも信頼しきっているからこそ、萩原は三塁走者を見なくてもこれまでの試合でアウトにしてこれた。逆にそこはつけ込むことのできるポイントだと分析したと読み取れる。

 「これまで九州ではここまでのチームとやったことはなかった。凄く勉強になりました」と敗れながらも目を輝かせて話してくれた萩原。挾間監督の話を聞いたあとにもう一度質問に行く時間まではなかったので、それを受けての感想を聞くことはできなかったが、もし聞いていたとしたらもう一つ勉強になったのは間違いないだろう。これはあえて書かないが、萩原自身も挾間監督のテレビインタビューのコメントをヒントに見事な分析能力を話した。野球の虜になり、夏へ向けての大きな収穫を得ることができた。

 ただ萩原はこうも話した。「今度はもっと打って点を取り、こんな(神経をとがらせる)展開にならないようにしたい」。いかにも高校生らしい答えだ。神経をとがらせる試合は面白いが、その分疲れる。でも、野球をさらに深く見られるようにもなる。 

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