冴えた継投策

 3回までの戦いぶりを見たら誰だって常総学院の優位は動かないと思っただろう。鹿児島実打線は1回表、待球作戦に出て、3人の打者が18球中4球、ストライクを見逃した。常総学院の先発・鈴木 昭汰(3年)はストライクを早めに取ってピッチャー優位のカウントで鹿児島実打線に対すことができた。

 常総学院打線は対照的に積極的に打って出た。1回の8人の打者はストライクの見逃しが33球中4球。見逃し率は鹿児島実22パーセントに対して常総学院は12パーセント。この積極的なバッティングが1回の得点にしっかり表れている。

 先発ピッチャーの立ち上がりをくらべても常総学院の鈴木のほうが見事だった。ベストボールは縦に割れるスライダー。これを右打者が捕えようとすると腹斬りのような形になり、バットに当たることは当たるがファールにするのが精一杯。これに縦変化のチェンジアップとこの日最速の140キロのストレートを交え、3回までに与えたヒットは内野安打の1本きり。このスライダーがある限り、常総学院有利の流れは変わらないと思った。

 得点経過をおさらいすると、常総学院打線は1回裏、4本の単打をつらねて2点を先取。先制打を放った2年生の4番・宮里 豊汰(2年)は昨年秋に行われた関東大会1回戦の横浜戦で今年のドラフト候補に挙げられている超高校級の藤平 尚真(3年)から第1打席でホームラン性の二塁打を左中間、第3打席で初球ストレートを振り抜いてやはり左中間スタンドに2ランホームランを放ち、天性の長打力を見せつけている。

 この日の宮里は4カ月前の荒々しさよりシュアな打撃が目立ち、一死一、二塁で打席に立った1回裏には2ボールからのスライダーをライト前に楽に運んで先制の走者を迎え入れた。第2打席以降もこの洗練された打撃は変わらないと思ったのだが、宮里のバットから快音は消えた。7回に無死一塁から放ったセンター前への打球が一塁走者の判断ミスのため二塁ゴロになってしまう不運はあったが、横浜戦で見せた豪快なプルヒッティングが影を潜めていたことも確か。この宮里のバッティンがチームに蔓延した。

 2、3、4回に常総学院が出した走者は四球の1人だけ。この3イニングの見逃しは41球中8球。見逃し率は12パーセントから19.5パーセントに跳ね上がった。対する鹿児島実は3イニングで57球中ストライクの見逃しは6球。見逃し率は1回表の22パーセントから10.5パーセントに減っている。この3イニングの攻防は試合の流れをガラッと変えた。

 鈴木のピッチングに注目すると、1回に猛威を振るった縦変化のスライダーが2回以降、少なくなった。9回まで投げることを考え、力をセーブしようという気持ちが芽生えたのだろう。1回表同様、見逃しが多ければカウントを楽に稼いで、勝負どころでスライダー、チェンジアップを投じる配球が可能だったが、早打ちに転じた鹿児島実はカウントを取りにきた130キロ台のストライクや変化の緩い変化球を捕えて4回以降、2点、1点、1点と小刻みに加点していった。

 それにしても鹿児島実の積極的なバッティングは見事だった。4回の綿屋 樹(3年)の内野安打は1ボールから、井戸田 貴也(3年)のタイムリーは1ストライクから、追立 壮輝(3年)の同点打は1ボール1ストライクから、5回の綿屋の勝ち越しタイムリーは初球136キロのストレートだった。1回の攻防は真逆だったのに、どうしてこうなってしまったのか流れの分岐点がどうしても見出せない。

 鹿児島実のベンチワークが冴えたのは6回裏の継投策である。常総学院が2つの単打と四球を絡めて2死満塁のチャンスを作ると、躊躇なくオーバースローの丸山 拓也(3年)からアンダースローの谷村 拓哉(3年)にチェンジ。渡辺俊介(新日鐵住金かずさマジック)、牧田和久(埼玉西武)ばりの120キロのストレートとスローカーブを交えて2番の有村 恒汰をキャッチャーフライに打ち取ると、それ以降も絶妙の緩急を操り3回3分の1を被安打2、与四球1という完璧な投球を演じ、強打の常総学院打線を無失点に封じる。流れを掴んだチームは何をやってもうまくいくという典型的な試合だった。

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