日本文理の活躍が新潟県だけではなく、北信越勢の意識を変えた(新潟県)

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 明らかに、2009年の夏以来、新潟県の高校野球そのものが大きく変わったといっていいであろう。

 現在も新潟県は、全国で甲子園の通算成績としては30勝67敗で、通算勝ち数は富山県に2勝及ばず47都道府県の最下位となっている。センバツ初勝利も06年に日本文理が果たしてやっと実現したくらいだった。この年、日本文理は2勝してベスト8に進出するが、翌年夏は新潟明訓が夏に2勝している。このあたりが09年への大きな助走だったとも言っていいであろう。

新発田農など公立校が、豪雪のハンディを乗り越え新潟県を引っ張る存在だった

新発田農業高等学校

 野球不毛の地という印象の否めない新潟県は、日本でも一、二を争う豪雪地帯である。野球の実戦練習ということに関して言えば、そのハンディキャップはどうしようもない。早いときには11月下旬から雪に閉ざされ、グラウンドが完全に使用出来るようになるには4月中旬まで待たねばならない。それだけでも、非常に不利な条件であるということは確かである。

 だから、県内の高校も圧倒的な勢力を誇ってリーダーシップをとっていくというような学校が長らく存在しなかった。古くからある県立商業の高田商や新潟商、長岡商が出場を果たし、地場の県立普通科の糸魚川、高田、小千谷などが、ある程度の活躍をしたということで、どこにもチャンスがあるともいえた。十日町や03年の春21世紀枠で選ばれた柏崎、さらには佐渡島の佐渡も地場の名門校で健闘している。

 実業校で勢力を示したのが新発田農だ。農業高校は、生徒集めでも苦労するというのも正直なところだが、1980年に19年振りに甲子園に出場して以来、翌年もベスト16に進出するなどして、その試合ぶりは甲子園ファンの人気を得た。ことに1回戦で延長の末、広島商を下したことによって「新潟に新発田農あり」と注目されるようになった。この時代の新発田農は確かに県内を引っ張る存在となっていたであろう。緑のアンダーシャツと帽子に農業の「Agriculture 」の「A」が印象的だった。そんなところに農業高校としての自負も感じられた。

[page_break:日本文理、新潟明訓を中心に、古豪の復活と新勢力の躍進に期待がかかる]日本文理、新潟明訓を中心に、古豪の復活と新勢力の躍進に期待がかかる

日本文理高等学校

 こうして公立勢がそれなりに実績を作ったが、やがて新潟県も私立勢が台頭していくことになる。まず、中越がその存在を示していた。1978(昭和53)年を皮切りに、83年、85年、86年と出場を重ねていき、2015(平成27)年まで夏だけで9回出場している。甲子園では2勝9敗という記録が残っている。

 さらに、中越に続いて私立勢として力を出してきたのが、水島 新司のマンガ『ドカベン』のモデル校として話題となった新潟明訓である。91年夏に初出場を果たし、その後90年代をリードしていた。当時の佐藤 和也監督が、積極的に関東や東京のチームとも交流を持ち、毎年春には関東遠征を組んでおり、おとなしい新潟の選手たちに、さまざまな県外校との試合によって、より高い意識を持たせる努力をしたことも大きかった。

 その新潟明訓を追うように、84年に創立した日本文理は、かつて宇都宮工で準優勝投手となった大井 道夫監督が率いて97年夏に初出場を果たしている。そして、前述のように06年に県勢初のセンバツ勝利を果たす。

 そしてエポックとなった09年、春は優勝した清峰に初戦で破れるものの、夏に快進撃をみせる。初戦で香川の藤井学園寒川に競り勝つと日本航空石川、立正大淞南、準決勝では県立岐阜商を撃破して県勢初の決勝進出。決勝では、中京大中京を相手に10対4とリードされて迎えた9回、二死から猛反撃で1点差としてスタンドを大いに沸かせた試合は、今も甲子園の名勝負の一つとされている。これで、新潟の日本文理の存在は強烈に印象付けられた。

 また、チームとしても大躍進して、14年夏にも大分、東邦、富山商、聖光学院を下して、ベスト4に進出している。わずかの間で一気に、新潟県勢の勝ち星を稼いだとともに、すっかり、強い新潟代表というイメージを定着させた。

 この日本文理に引っ張られるように、新潟明訓も10年夏にはベスト8に進出し、12年夏にも県立岐阜商を下すなど、新潟県勢の勝ち星を増やしている。こうして2強の形成ができてきたが、ここへきて15年夏には中越が復活するなど、再び力を示してきている。さらには、帝京長岡、東京学館新潟、関根学園といったところも上位を窺う存在となってきた。

 また、かつて県内をリードしていた小千谷、柏崎に巻や進学校の新潟、長岡なども好チームを作ってきている。新しいところでは2008年夏の甲子園出場の新潟県央工、そして2013年新潟大会決勝まで勝ち進んだ村上桜ヶ丘なども健闘している。

(文:手束 仁)

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