巨人、ヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏【写真:田口有史】

松井氏と合致した打撃理論「誰に何を言われようと、この打ち方を曲げるつもりはない」

 開幕から盛り上がりを見せているプロ野球で、DeNAの充実ぶりが目立つ。9日には阪神を2−1で下し、8年ぶりとなる単独首位に浮上。中畑清監督が就任してからは初の出来事で、現在も2位につけ、首位争いを繰り広げている。

 好調のチームを牽引するのは、他でもない4番の筒香嘉智外野手。その活躍には目を見張るものがある。美しい放物線を描くホームラン、広角に打ち分ける技術、そして、打席で醸し出すオーラ。2009、10年と横浜ベイスターズ(当時)でプレーしたOBで、ヤクルト、日本ハム、阪神でもキャッチャーとして活躍した野球解説者の野口寿浩氏は「3割、30本、100打点どころか、3割40本、100打点も期待できる」と話す。

 大器を“覚醒”させたのは、やはり、あの偉大な強打者だったという。

「2月に宜野湾キャンプに行った時、ちょうど松井秀喜君が筒香君を指導した翌日に話を聞けたんです。色々と教わって、筒香君は信念を持ってやってますから。その前から大村(巌)打撃コーチと2人で一緒に取り組んできたことがあって、松井君が来た時に質問をぶつけたら、考えていたことと同じ答えが返ってきたらしいんですよ。

 だから、彼は『誰に何を言われようと、この打ち方を曲げるつもりはない』とはっきり言い切ったんです。信念を持ってやっている、確固たるものを持っているバッターは、やっぱり強いですよね」

 今年のDeNAキャンプには、巨人、ヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏が視察に訪れ、大きな話題となった。筒香へのアドバイスも各メディアで取り上げられたが、その効果はやはり大きかったという。

松井氏のような筒香の打球音「『カーン』ではなく『バキッ』」

 では、同じ左打ちの偉大なバッターから、筒香は何を教わったのか。

「『(ボールを)引っ張りこんで、ポイントを近くして、軸で回転して打つ』。松井秀喜のバッティング理論が筒香くんにはピッタリ合ってるんです。あれだけ実績を残した人にそうやって言われたら、それは『よし』となりますよね。

 ただ、それが合ったのは、振る力、ミートするセンス、力ありきの柔軟性を筒香君が持っていたからでしょうね。普通の打者では出来ないですよ。彼の打球音は何かを壊しているような感じ。『カーン』ではなく『バキッ』という。バットが折れたのかなというような。それ(でボール)が飛んで行くんです」

 まさに松井氏の現役時代のような打球音、そして飛距離が、今年の筒香にはある。そして、仮に打撃が崩れるようなことがあっても、すぐ近くにそれを修正してくれる人物がいる。

「万が一(形が)崩れたとしても、大村コーチが言ってくれる。松井君に教わったことを大村コーチも一緒に聞いていてくれたらしいので、ずれてきた時に修正してくれる人が1人いる。そうなった時の気持ちは楽ですし、心強いですよね。今の時代は映像も簡単に手に入るので、見ながら自分の目でも確認できます。安心感と信念をもってやっているので、ただ一過性で調子が良くて打っているだけではないと思いますよ」

 今年の筒香には「3割、40本、100打点」も見えてくると、野口氏は太鼓判を押す。「一番、難しいのは100打点。これは1人では出来ないことなので。前に走者がいないといけない。伸びてくれればいいですね」。ただ、ここまで1〜3番も絶好調だけに、期待は膨らむ。

打席で優位に立ちつつある筒香、あとは「我慢できるか」

「ピッチャーからしたら、筒香くんの構えてる姿が大きく見えてくるんです。構えられると、どこにでもバットが出てきそうに見える。キャッチャーをやっていてもそうです。ギリギリアウトローの角を舐めるような球でも、ガチンと打たれそうな気がする。そうなったら勝ちですよ。バッテリーが怯えてるということですから。サインを出している人間はかなりの威圧感を感じているはずです。

 あとは、我慢が出来るか。筒香君が我慢してボール球を振らないことですね。フォアボールをもらえれば、チームのチャンスになる。(5番の)ロペスの調子がいいので、チームが得点する確率が上がる。それで我慢できればいい。

 これから“インコース攻め”とか、“落ちるボール攻め”とか、絶対に出てくるはずなんです。そこでボール球を打ちにいくと、形を崩すことになってしまう。1球も打てないボールなら、ストレートのフォアボールをもらえばいい。ホームラン、打点の数は増えないかもしれないけど、評価と出塁率はグングン上がっていきますから」

 誰の目に見ても明らかな、筒香のポテンシャル。松井秀喜の“遺伝子”を受け継いだ男は、今シーズンが終わった時に球界一の強打者として認知されているかもしれない。