日本人選手が海外クラブに加入すると、合わせて日本人記者の数が急増する。通信社や新聞各社が担当記者を置くために起きる現象だが、たった一人の選手に、数名の担当記者がつくというのは、世界でも稀だろう。
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毎節10名近い日本人記者が試合に訪れる。ブラジルのスター選手であってもそういうことはない。だから、受け入れるクラブにも当然戸惑いはある。

 しかし、インテルは違った。

 長友佑都が加入した直後の監督会見で、「気を使わず、聞きたいことは質問してくださね」と日本人記者に質問を促していた広報スタッフの心遣いには驚かされた。もちろん、中田英寿がイタリアへ渡って10年余り、イタリア在住の日本人記者たちが培った信頼があるからこそだとは思うが、「インテルは他のクラブに比べると外国人メディアにやさしい」と、在住記者自身も語ってくれた。

 2011年のチャンピオンズリーグ準々決勝のシャルケ戦には、日本人の記者やカメラマンが数多く取材申請を出した。そのほとんどすべてを承認し、結果、30名を越える日本の報道陣が試合を取材する機会を得た。多分、他のクラブでは到底ありえないことだと思う。

 「国籍に関係なく、世界中の選手に門戸を開く」

 インテルはそんなポリシーのもと1908年に生まれた。“インテルナツィオナーレ・ミラノ”というその名の通り、国際的な視野を今も持ち続けているクラブなのだ。


 11月15日、インテルはモラッティ会長の名誉会長就任を発表した。同時に、インテルの株の70%を取得したインドネシア人実業家、エリック・トヒル氏の新会長就任も発表された。

 好成績を残した代償なのか、高騰し続ける選手の年俸や国内の不況なども影響し、ここ数年インテルの財政は苦しい状況に立たされてきた。エトーやスナイデルを放出し、他の年俸も軽減したものの、逆にUEFAの大会出場権を逃した結果の収入減で、負債は100億円近くに上っているといわれていた。一人のオーナーが抱えるには大きすぎる金額だ。

 と同時に巨大なアジアのマーケットを開拓するうえでも、アジア系の資本を受け入れることが、クラブの未来に与える影響も小さくはないだろう。そんなインテルナツィオナーレ・ミラノ”のトップに相応しい、モラッティの決断をサポーターも歓迎しているようだ。

「モラッティ会長への信頼度は非常に高いので、『あの会長が決断したのだから』とサポーターの間でも好意的に受け止められていると思います」とミラノ在住の日本人記者が教えてくれた。

 プレミアリーグでは他国資本の導入が盛んだが、セリエAではローマに続いての2例目。ビッグネームを次々と放出しているACミランとて、財政問題を抱えている現状だ。

 オーナー制など独自の経営を続けてきたイタリアのクラブもまた、改革のときを迎えているのかもしれない。

写真/oneinchpunch , 123RF