■昨年の平均動員数を上回る観客数

4月8日、松本山雅FCがKankoスタジアムでファジアーノ岡山との一戦を迎えていた同時刻、筆者は長野市にいた。南長野運動公園総合球技場でのJFL公式戦の取材に赴いたのだ。対戦カードは、AC長野パルセイロ対横河武蔵野FC。

松本山雅が昨年まで在籍したJFLは多士済々、実に特色のあるクラブが混在するリーグで、厳しい競争を強いられる場所であることは理解しているつもりだ。何とか“卒業”を果たすことが出来たわけだが、JFLの持つ魅力に負け、一念発起(というほど大層なものではないが)して南長野に足を運んだわけである。以下は、自分の立場を弁えた上での客観的なJFL観戦記である。

南長野は盛況だった。実はこの点は驚きだった。

松本山雅がJ2に昇格してから、県内外での報道量は圧倒的に増え、その点で割を食う形になっている。また長野はスタジアム整備などの条件が満たせていないなど、今年2月の準加盟申請も継続審議扱いとなっており、数年はJリーグ昇格が成らず、ピッチ内外でモチベーションを維持しにくい状況だ。動員面に関しては厳しい戦いを強いられるのでは、と想像していた。

しかし、この日の2788名という数字は昨シーズンの平均動員を上回っており、長野を応援し、支えようという人たちは着実に増えていた。年齢層も幅広く、橙色のそれを緑色に変えれば、アルウィンで見かける光景だった。サポーター文化の面では松本の二番煎じ扱いをされがちな長野だが、その萌芽は強く感じ取ることが出来た。

■立ち上がり主導権を握った横河

ピッチ内に目を移そう。長野と武蔵野、両チームとも4-4-2のフォーメーションを敷いている。注目選手は、長野はやはりエースの宇野沢祐次、対する武蔵野は2トップを組む小林陽介と冨岡大吾のフォワード陣だろう。特に冨岡は、昨シーズンは長野でプレーしており、ある意味長野の手の内は知り尽くした選手である。

試合開始直後、主導権を握ったのは武蔵野だった。大胆なサイドチェンジから右MF都丸昌弘が決定的なチャンスを作れば、ボランチの岩田啓佑も左右にパスを散らす。最前線にはターゲットマンの冨岡がおり、ディフェンスラインの裏へ抜け出す動きが持ち味の小林と合わせ、シンプルなロングボール戦術にも対応出来る。ボールを保持する時間も多く、序盤は武蔵野に分があった。

しかし、地力に勝る長野は売りの“繋ぐサッカー”で活路を開く。スイッチを入れたのは、MF栗原明洋だった。中央でボールを受けると、シュートコースが開いていると見るやためらうことなく右足を振り抜いた。ゴールこそ決まらなかったものの、チャンスがあれば遠目からでもシュートを放つという攻撃姿勢がチームに火を点けた。

28分、武蔵野DFのパスミスをカットした宇野沢がそのまま独走、右サイドから詰めていた向慎一が確実に流し込んだ。決めた本人も「落ち着く時間が増える。大きかった」と胸を張る、張り詰めたゲームに投じられた先制点。これで試合が長野有利となることは明らかだった。事実、ここから武蔵野も大きなサイドチェンジが影を潜め、キーマンの冨岡も長野ディフェンス陣に動きを封じられる。

■長野のパスサッカーは健在

長野のパスサッカーは健在だった。左サイドから中央に、そして右サイドを経由して、再び中央にボールが動くが、それはあくまでも“目的”。ボールが流れるたびにアタッカー陣も前へ前へと上がっていき、武蔵野DFもケアはするのだが、その網の目から逃れるようにフリーの選手が必ず一人はペナルティーエリア内でチャンスを伺っているのである。42分には宇野沢が動かしたボールを栗原が押し込み、良い時間帯での追加点。これで武蔵野はますます前がかりにならざるを得なくなる。