街のレストランで飲んだ北朝鮮のビールは薄くて口に合わなかったが、キャバクラのそれは格別だった。金正日(キム・ジョンイル)総書記も思い入れがあるという大同江(テドンガン)ビールは味わい深く、ノド越しもいい。美女とのダンスで汗をかき、アルコールが体に心地よく染み渡ってくる。


■カラオケで英語の曲を入れてみると……

 しかし、隣のガイドに目をやると、なぜか険しい表情をしていた。

「もっと接近しないとダメです!私が見本を見せます!!」

 突如、ガイドはロス・インディオス&シルヴィアの『別れても好きな人』を入力すると、ヨンちゃんを呼ぶ。そして腰に手を回し、チークダンスを始めた。至福の表情を浮かべているガイド。

「次は、僕がいきます!」

 それを見て喜び勇(いさ)んだH君が、モーニング娘。の『恋のダンスサイト』を選曲。ヨンちゃんの腰に恐る恐る手を回すと、H君は想定外の動きを始めた。なんと腰を前後に動かし、ピストン運動をしたのである。ヨンちゃんは露骨に嫌な顔をし、H君から離れる。するとガイドから、「手“など”動かさないでください!」と厳重注意が入った。曲が終わり、うつむき加減で戻ってくるH君。

「テポドン、誤爆しました……」

 部屋が一瞬の静寂に包まれる。反日感情の強い北朝鮮では、笑えない冗談だ。重い雰囲気を一掃すべく、藤井フミヤの『TRUE LOVE』を入力し、浮かない表情のヨンちゃんをチークに誘う。歌い終わると、白いチューリップの造花をプレゼントしてくれた。

 女のコたちと言葉が通じないため、日本のキャバクラのように会話を楽しむのではなく、ひたすら歌とダンスに興じる時間が続いた。曲が途切れると、気を利かせたスンちゃんが、筆者とH君のために谷村新司の『昴(すばる)』、さだまさしの『雨やどり』など70年代、80年代の曲を入力してくれた。しかし、古すぎてわからない……。BGMだけが寂しく流れていく。

 筆者は空気を変えようと、ビジュアル系バンド、PENICILLINの『ロマンス』を入力。ハードロックに頭を振り、激しく歌う。しかし、スンちゃんもヨンちゃんも一切リアクションなし。すでに時計は0時を過ぎ、毎日出勤しているというふたりから疲れの色が窺(うかが)えた。

 終了時間が近づいてきた頃、北朝鮮で英語の曲はアリなのか確かめるべく、ABBA(アバ)の『ダンシング・クイーン』を入れてみると、イントロが流れるやいなやスンちゃんがうれしそうに立ち上がり、マイクを握った。筆者の英語よりはるかにうまい。スンちゃんのくびれボディを抱き寄せ、チークを楽しむ。ウインクしてくるスンちゃんに、思わず鼻の下が伸びる。

 こうして2時間があっという間に過ぎた。北朝鮮の美女と歌やダンスを楽しめ、チークで密着までできるとは……。3万円をはるかに超える満足度だ。

 店を出ると、ガイドがうっすらと笑みを浮かべながら言った。

「女のコの感触を忘れないでくださいね!」

 平壌滞在最後の夜に見た、甘く儚(はかな)い夢。忘れられるわけがない。

(イラスト/キャプテン・スミス)

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