■名将のもとに名参謀あり

大きくクローズアップされることはなくとも、あるときは監督の頭脳、またあるときは監督の手足となって支える参謀役のコーチたち。

経営再建中の大分には、他チームで出場機会に恵まれなかった選手や野簿悩む選手を貴重な戦力として再生している。その“きっかけ”を与えるのが監督の役割なら、きっかけを“ものにする”ための準備を施すのが参謀と呼ばれるコーチやフィジカルコーチである。

■陸上のエキスパートによる肉体改造

竹下琢也。アグレッシブなサッカーを目指す田坂和昭監督が招聘したフィジカルコーチである。1試合に10km以上も走るといわれる現代のサッカーにおいて、指揮官は「サッカーの基本である走りを追求したい」と陸上競技専門のエキスパートを迎えた。

竹下コーチは、オリンピックの陸上競技で活躍した杉本龍勇氏の一番弟子だ。杉本氏とともに清水でフィジカルトレーニングを担当し、岡崎慎司(VfBシュトゥットガルト)や藤本淳吾(名古屋)などを指導した経験がある。今季は大分の臨時フィジカルコーチとして月に2度ではあるが、サッカーという競技に陸上のエッセンスを採り入れて、個々のレベルアップを図っている。

竹下コーチは飛び出しや50m走を速く走れるようにしようとか、そういった具体的なメニューではなく、まずは走り方を矯正することで無駄な体力の浪費をなくすことから改善してきた。「プロに入ってきている以上、みんな才能を持っている。ただ、身体の使い方が雑。走ることに対して強さはあるが無駄が多い。細かく言うと、地面につくタイミングと足を上げるタイミングが同時になれば効率がよくなり、疲れずに速く走れるようになる」と、股関節の稼働域を広げるストレッチやペース走、サーキットトレーニングを中心としたメニューを組み、考えて走らせることで身体の動かし方、足の運び方を覚えさせた。

シーズン当初から指導を受けた選手は正しい走り方を身につけたことで、ある変化が訪れたという。「90分間疲れず、楽に走れるようになった」(姜成浩)、「相手との競り合いで簡単に倒れなくなった」(土岐田洸平)。竹下コーチの意図した通りの反応が形となって表れている。

竹下コーチは「筋力が大幅についたのではなく、身体の使い方、動かし方を習得したから」と肉体改造の過程を説明し、「疲れず走れるようになったのは、単純に燃費がよくなったから」と選手の成長具合に自信をみせている。

今季の大分は復活劇を遂げた選手が数多くいるが、トリニータ再生工場には田坂工場長のほかに、優秀な製造課長がいるからこそ、多くの再生者を生み出しているのだ。

■性能の良いエンジンを持つ、森島康仁

選手の走る燃費を向上させている竹下コーチが、チームで最も大きく性能のよいエンジンを持っていると推すのが森島康仁である。「あの身体の大きさで運動量がある。持って生まれた才能はピカイチ。どんなスポーツをしても大成できる」と絶賛する。

デカモリシの愛称で親しまれ、調子のり世代の筆頭として2007年のU-20ワールドカップ・カナダ大会で一躍名を挙げた選手のひとり。186cm、80kgの体躯を生かした高さとパワーで将来の日本代表と目され大器であった。

しかし、ここ1、2年は持病の腰痛に悩まされコンスタントに力を発揮できず、精神的にもムラが多いのが災いし、出場機会の減少とともに全盛期の輝きを失っていた。

そこで田坂監督は、選手を育てるために何より大切な自信をつけさせた。「お前が得点できる最高の舞台を用意している」。森島にとっては、何年も耳にしていなかった心地よい言葉であった。指揮官の言葉に踊らされたわけではないが、悪い気はしない。練習にも一層気合いが入り、試合に出続けることで結果が出始め、気持ちがのった。