ここ最近、そういった遠慮がちな発言に終始しているのも、2010年南アフリカ、2014年ブラジルの両ワールドカップで苦い思いを味わってきたからだろう。とりわけ、ブラジル大会では最終ラインのレギュラーに君臨しながら、チームを勝たせることができなかった。最たるものがラストのコロンビア戦(クイアバ)だ。「中盤での球際やルーズボールを全部持っていかれたし、パススピードも無茶苦茶速かった。すごい差を感じた」という衝撃は今も忘れることはない。世界トップレベルの高さを嫌と言うほど痛感しているからこそ、軽々しくワールドカップなどと言えない部分があるのかもしれない。

 今野が見据えているのは、目の前の戦いだけ。中2日でやってくる中国戦(12日)、その後に控えている韓国戦(16日)をどう戦うか。そこに集中するのが、30代半ばに差し掛かった今の彼の流儀である。

「代表戦は重みがある試合だし、負けられない気持ちも強いから、みんな守りに入ってしまうところがある。いろんなことが重なって、北朝鮮戦は見ている人からしたら『消極的なパスが多かった』と思われるゲームになってしまった。自分もパス出しのポジションが低かったし、もっと前に行って、決定機を作る前のパスをどんどん出していきたい。自分がやるべきことをしっかり分かったうえで、次にいい試合ができるのがいい選手。何とか変えていきたいですよね」と今野は改めて前進を誓った。

 その言葉通り、自らチームを統率し、停滞しがちだった攻めのスイッチを入れ、守備面でもより安定感を高める方向へと導ければ、E-1選手権のタイトルが見えてくる。6カ月後の大舞台への道も開けてくるだろう。35歳でワールドカップ出場というのは日本人選手最年長。その壁を彼なら破ることができるはず。そう期待して、今大会の残り2戦をしっかりと見極めたいものだ。

文=元川悦子