写真提供:マイナビニュース

写真拡大

●Android Lは局所的な変更に過ぎない米Googleの開発者向けイベント「Google I/O 2014」が6月25日(現地時間)から開始された。スタートはAndroid、Chrome、Apps担当のSenior Vice PresidentであるSundar Pichai氏の基調講演で、次期Android OSの新機能の一部や、Androidの拡大が紹介された。端末としては、スマートウォッチ「Android Wear」が紹介されており、トピックスの多い基調講演だった。

今回のGoogle I/Oの基調講演で注目されたのは、次期Android OSだ。講演中は「L」と呼称されており、最後に名称が発表されると思いきや、結局最後まで「L」で通された。バージョン番号も現時点では不明なので、ここでは「Android L」としておく。

さて、そのAndroid Lが初めて公開され、新たなデザインである「マテリアル・デザイン」というコンセプトが明らかにされた。フラットデザインではあるが、奥行きを考慮したデザインになり、カード型を採用した形状で、どちらかというとマイクロソフトのタイル型のUIに似ている。

何より、スマートフォン、タブレット、PC、テレビ、車載器、時計といった多彩な製品の画面サイズに適用できるような工夫が盛り込まれた。スマートフォンの画面サイズ違いだけでなく、異なる製品でも最小限の工夫でアプリを提供できるようにするという意味で、大きな変更点だろう。

このデザインに加えて、大きな変更が「ART」の採用だ。今まで、Androidは仮想マシン(VM)にDalvikを採用していたが、これがARTに変更される。ARM、x86、MIPSでも動作するクロスプラットフォームのランタイムで、さまざまなベンチマークテストでパフォーマンスが向上。64bitにも対応したほか、GPU向けのExtension Packを用意。講演中も言及があったように、DirecX 11のようなグラフィックスを実現できる。

こうしたさまざまな変更、改善は、局所的には大きなポイントではある。ただ、今回の基調講演を通して語られたのが、GoogleのAndroid戦略だ。Androidは、スマートフォン向けOSから始まり、今はタブレットOSとしても使われているが、これをテレビ、腕時計、車載器へと拡大する。

●TVへ腕時計へ車へ飛び出すAndroid今回の発表ではテレビとしてAndroid TV、腕時計としてAndroid Wear、車載器としてAndroid Autoが紹介された。さらに、PC向けのChrome OSでは、Androidアプリが動作する仕組みが用意されたことで、Chrome OS搭載PCにもAndroidが拡大することになる。

マテリアル・デザインやARTといった取り組みは、こうしたAndroidの世界観の拡大に繋がっているのだろう。Androidがスマートフォン・タブレットだけでなく、家庭のさまざまなエリアに進出していくのが目的だ。

身につける腕時計、リビングのテレビ、車の中とAndroidが拡大することで、ユーザーとしては、常に同じUIで、常に同じデータを、同じ使い勝手で利用できる。音声検索・操作が強化されることで、操作方法が限られるテレビや車載器でも使い勝手を高めようという工夫が見受けられる。

そして「Google Fit Platform」も発表された。Android Lでは、複数のBluetooth Low Energy(BLE)端末からデータが受信できるようになるため、複数のウェアラブル機器、ヘルスケア製品からデータを受信し、それを一元的に表示するプラットフォームとなる。

このAndroidの世界観の拡大、ヘルスケア分野の強化は、「どこかで見た世界」である。そう、すでにアップルがWWDC 2014で発表している内容と重なる部分だ。これは、どちらかがマネした、とか、どちらかが後追いした、とかいう話ではない。要は、「その時期に来た」という話だ。

●Apple、Goolgeのチカラで世界が進むアップルもGoogleも、自社のOS・端末が拡大し、世界に広がっていることをアピールする。スマートフォンは、すでに「ハブ」としての機能を持ち始めており、さまざまな機器に接続しようとしている。そこに搭載されているOSは、そのままスマートフォンと同じ方が都合がいい。

そして、ハブとなるべきスマートフォンとともに、常に身につけるウェアラブル製品、毎日の測定が必要なヘルスケア製品を組み合わせた健康関連の製品は、先進国(特に米国)では大きな注目を集めている。それに最適なソリューションを提供するのは、当然の流れではある。市場性やサードパーティーの製品の開発状況ももちろんタイミングには影響するし、BLEのような技術的な動向も影響する。

その意味で、両社のタイミングが一致したのは自然な流れだ。逆に言えば、両社がこの方向性を示したことで、市場の動向もその示す方角に進むことになるだろう。

車載向けも同様だ。単に両社が方向性を示しただけでは意味がないので、関連業界の動きがポイントとなり、そのタイミングが一致して、今回の両社の発表につながったのだろう。

AndroidにせよiOSにせよ、「革新的」ではないが、未来の方向性を示したという点で、大きなイベントではあった。デバイスとしては、Android WearやAndroid TVの発表があった点で、Googleが先行した。しかしアップルの真価は、基本的に後出しにあるので、この次に発表される、「スマホ以外」の製品が、市場の動向を決定づけるかもしれない。

例えばAndroid Wearは、それが腕時計である必然性や腕時計として使いたいと思わせるデザイン性とか、ちゃんと検証されているのか。逆に言うと、それが検証できなければ、アップルは腕時計型ではない、別のデバイスを投入することも考えられるだろう。

今年は、そうした新たなデバイスによる新たな世界観のスタートの年、といえるかもしれない。

(小山安博)