都市の生活は脳が疲れやすい…ストレスを和らげる鍵は<自然>。脳のリラックスと集中力アップを同時に叶える「万能薬」とは?
しっかり寝ても疲れが取れない、やる気が出ない、イライラする…最近、このようなことはありませんか?「その不調、もしかしたら『脳の疲労』が原因かもしれません。脳の疲労は、頭を使いすぎたときだけでなく、ストレスや情報過多によっても引き起こされます」と語るのは、脳トレの第一人者である医学博士・川島隆太さんです。そこで今回は、川島さんの著書『脳を休める!』より、一部を抜粋してお届けします。
【書影】「脳の疲れ」をとれば 奪われた集中力は取り戻せる!川島隆太『脳を休める!』
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趣味や知的な活動が疲れない脳をつくる
脳を休ませるためにはまず「脳の疲れをとる」というアプローチが重要です。しかしそれだけでは不十分で、「脳の疲労耐性を向上させる」働きかけが欠かせません。脳の疲労耐性を高めるというと、特別なトレーニングを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし実際には、心地よい刺激や楽しい体験によって脳を適度に活性化させることも、疲れにくい脳をつくるうえで効果的です。仕事や義務とは切り離された「好きなことに没頭する時間」はストレスを軽減し、脳の働きや疲労耐性にも良い影響を与えることがわかってきています。
脳の疲労耐性を高めるためには、前頭前野を過剰に働かせ続ける状態から離れることが重要です。趣味や体験活動の多くは、運動と同様にスマホやSNSから距離を置く時間にもなります。現代人の脳は、情報過多によって常に働き続けていますが、好きなことに集中している時間は、脳をそうした状態から解放してくれるのです。
さらに近年は、趣味や知的活動、社会的交流が、認知症予防や認知機能維持にも関係していることがわかってきました。脳の疲労を軽減し、疲れにくくすることと、将来的な脳の健康を守ること、そのどちらにも深くつながっているのです。
脳の疲労耐性を高めることにもつながる、さまざまな趣味や体験について紹介していきます。
都市の生活は脳疲労が蓄積しやすい!?
脳の疲労は、前頭前野と扁桃体を結ぶネットワークの活動と関連しています。ドイツのハイデルベルク大学の研究チームは、このネットワークが、都市部に住む人ほど、社会的ストレスを受けたときにより強く反応することを明らかにしています。
絶え間ない情報や人間関係の刺激にさらされる都市生活は、仕事や学びの場が集中し便利な一方で、脳には大きな負担を与えています。都市部で暮らす人々は、社会的評価や人間関係の摩擦に対して過敏になりやすく、脳疲労を蓄積しやすいと考えられているのです。
こうした都市のストレスを和らげる方法の一つとして、自然体験が注目されています。昔から、「疲れたら自然の中へ行くと良い」と言われますが、森や海に出かけると気持ちが軽くなったり、頭がすっきりしたりした経験がある方も多いのではないでしょうか。
実は、こうした感覚は単なる気分の問題ではありません。自然環境が脳のストレスを和らげ、脳疲労の回復や疲労耐性の向上に役立つことは、脳科学的にも明らかになっているのです。
理想をいえば、定期的に森や海、山などの自然豊かな場所で過ごすことですが、それが難しくても効果は期待できます。たとえば、仕事の休憩中に近くの公園でコーヒーを飲む、通勤の途中で街路樹がある道を歩く、ランチの時間に芝生の上で深呼吸をする、そんな小さな自然体験でも、脳のストレス反応を和らげる効果があるとされています。
週末は自然の中で過ごし、平日は身近な緑を意識的に取り入れる。そんなライフスタイルを積み重ねることも、脳疲労対策として有効です。
自然体験を通した脳の疲労の回復、そして脳の疲労耐性を高める取り組みとして、ガーデニングも有力です。アメリカのコロラド大学の研究では、ガーデニングを始めた人は、身体活動量や食物繊維の摂取量が増え、ストレスや不安のレベルも大きく低下していました。外出する時間がない、運動が苦手という人は、庭やベランダで、ガーデニングを楽しむのもよいかもしれません。
自然に触れる効果
また、アメリカのユタ大学では、緑がある環境で散歩したグループのほうが、都市環境を散歩するグループと比較して、枯渇していた注意力が有意に回復することが示されています。これは緑がある環境での散歩が、脳の疲労回復を促進したことを意味します。
都市部では、常に過剰な刺激とタスクで絶えず注意システムを働かせているために注意力が低下し、精神的疲労につながっている可能性があると研究者らは指摘しています。自然に触れることは、現代的な生活環境に伴う注意力の低下を和らげる効果があると考えられます。

(写真提供:Photo AC)
さらに、自然豊かな環境でキャンプをすることで、おそらく複雑な対人関係や仕事などのストレスがなくなり、脳の疲労が一気に回復した結果、創造性が50%も向上することも研究で明らかになっています。
研究者らは、「自然環境に長時間触れることと、日常で没頭し過ぎているテクノロジーからの解放によって、複雑な認知能力が促進されると考えられる」と述べています。公園や海を散歩しているときに、斬新なアイデアや、これまで考えつかなかったような問題解決法が頭に浮かんだ、という経験がある方には、おおいに納得できる研究成果だと思います。
脳の疲労の万能薬
芝浦工業大学らの研究グループは、学習中に集中力が低下するタイミングで、「川のせせらぎ」の音を聞かせることで、クラシック音楽やホワイトノイズを聞かせたときと比較して、より集中力が回復することを、脳波計測によって明らかにしました。学習によって生じた脳の疲労を直接回復する効果が認められたと考えられます。
自然の音は、脳にリラックスをもたらすだけではなく、作業中の脳活動を高めるといった相反する効果もある、脳の疲労の万能薬である可能性が示されました。
自然は、私たちに安らぎを与えるだけではありません。疲れた脳を回復させ、集中力や創造性を引き出してくれる存在でもあるのです。
※本稿は、『脳を休める!』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

