「キャッチ ア ウェーブ」三浦春馬

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 夏真っ盛り。社会人にとってはとにかく暑さが厄介な季節だが、若者には様々な出会いや経験、変化を迎えるための“特別な季節”だ。照りつける太陽、青い空、白い雲。かけがえのない「あの夏」を描いた名作5本を、映画解説者の稲森浩介氏が紹介する。

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【写真】爽やか、脱力、鮮烈、おバカ…男たちの夏を描いた作品たち

サーフィンと恋の夏休み

〇「キャッチ ア ウェーブ」(2006年)

 本作の翌年に公開される「恋空」でブレイクした、三浦春馬の主演作品。当時三浦は役と同じ16歳だった。

 高校1年生の夏休み。湘南の海にやってきた大洋(三浦春馬)、誠人(木村了)、浩輔(濱田岳)は、サーフショップの社長デューク(竹中直人)と出会いサーフィンを教えてもらう。やがて大洋のもとに、地元のサーファー・ジュリア(加藤ローサ)が現れて……。サーフィンとの出会い、そして初めての恋が彼らの夏を変えていく。

「キャッチ ア ウェーブ」三浦春馬

 ストーリー展開に目新しいものはないが、当時日本で初めての本格的なサーフィン映画と言われ、湘南の夏の風景がいくつも撮られている。例えば大洋とジュリアがデートで待ち合わせる江ノ電の駅には「七里ヶ浜」とあるが、実際は海が目の前にあることで有名な「鎌倉高校前」だ。現在は漫画「スラムダンク」の聖地としても知られている。この地を舞台にした代表的作品だろう。

 三浦は公開当時、サーフィンは未経験だがスピードや風を感じてみたいと話している。ほとんどのシーンを自身でこなし、とても早い上達ぶりで、その後もずっと続けていたようだ。三浦の声はまだかん高く、演技もぎこちない。身体つきもほっそりとしていて幼い感じだ。

 でも、しばらくするとその眼に引き込まれてしまう。何て純粋な眼をしているのだろうと。公開当時に観た人は、この少年はきっと素晴らしい俳優になるだろうと思ったに違いない。

パノラマ写真の夏休み

〇「世界でいちばん長い写真」(2018年)

 作品ごとに違った表情を見せ、カメレオン俳優と言われる高杉真宙。これまで、不良、消費者金融社員、建設会社のサラリーマン、窃盗団など様々なタイプの人物を演じてきた。本作では一台のカメラとの出会いで変わっていく高校生を演じた。

 宏伸(高杉)は将来の目標や希望が見つからない高校3年生だ。夏休みに入ったある日、従姉の温子(武田梨奈)が店長のリサイクルショップで、見たことのない一台の古いカメラを見つける。それは360度の写真が撮れるというものだった。夏休みの間、宏伸は自転車に乗ってパノラマ写真にふさわしい場所を探し回り、向日葵畑に出会う。

 勝ち気な写真部長の奈々恵(松本穂香)は、覇気のない宏伸に厳しいが、実は宏伸のことが気にかかっている。そんな奈々恵が美大進学を断念した時、宏伸はこう慰める。「パノラマ写真一枚の中には時間が流れている。それは良い時も悪い時もある人生と似ている」と。奈々恵は「高校生が人生を語るな。でも、ありがとう」と返す。こんなやり取りがピュアでとても微笑ましい。

 やがて夏が終わり文化祭の季節。そこで宏伸は、参加クラブの全員をパノラマ写真で撮る計画を立てる。エンディングで流れるパノラマ写真は、この時しかない高校生たちの瞬間を捉えていてとても眩しい。

 高杉は昨年、女優の波瑠と結婚して話題になった。2人の出会いはドラマ「わたしのお嫁くん」(フジテレビ)で、共通の趣味はアニメやゲームらしい。そしてカメレオン俳優の素顔は、徹底したインドア派で人見知りだという。

脱力系の夏休み

〇「森山中教習所」(2016年)

 野村周平と賀来賢人のダブル主演で、大学生とヤクザのひと夏のふれ合いを描く。

 愛想はいいが何を考えているかわからない大学生・清高(野村周平)は、夏休みに車の免許を取ることを思い立つ。教習所へ行くと高校の同級生だった轟木(賀来賢人)に再会する。轟木は家庭の事情で高校を中退しヤクザの組事務所に入ったが、組長に命じられ免許を取りにきたのだ。2人が通うのは非公認の「森山中教習所」。廃校になった森山中学の校庭をコースにしている。校舎に住みながら教官をしているサキ(麻生久美子)に清高は恋をするのだが……。

 暑い夏の気だるさと登場人物の脱力感が、何とも言えない雰囲気を醸し出している。その魅力を成立させているのは、まったく異なるタイプの芝居をする野村と賀来だろう。

 清高は恋人の気持ちが理解できず、将来にも関心がない人物。普通ならただのだらしない青年だが、野村は「とりあえず今日を生きていこう」という現代の若者をリアルに演じる。対照的に轟木は、ポーカーフェイスのクールな人物。しかし、教習所で清高と時間を過ごすにつれて、表情が少しずつ柔らかくなっていくのが分かる。賀来も「轟木は抱えているものが多く感情を出さない人物であり、その成長を演じることにやりがいを感じた」と公開当時に語っている。

 若者にとって卒業前に通う教習所は、出会いがある人生のモラトリアムなのかもしれない。大人になる手前の二度と戻らない夏を、静かに描いている作品だ。

「太陽族」の夏休み

〇「狂った果実」(1956年)

「太陽の季節」(1956年)で、圧倒的な存在感を見せた石原裕次郎の初主演作品。原作者の兄・石原慎太郎は、当時奔放な生活を送っていた裕次郎たちのグループをモデルにしたという。彼らは「太陽族」と呼ばれ社会現象を起こす。

 滝島夏久(石原裕次郎)と春次(津川雅彦)の兄弟はある夏の日、葉山の海で美しい恵梨(北原三枝)と出会う。純真な春次は恵梨に惹かれ、恵梨もそれに応える。しかし夏久は恵梨が外国人の妻であることを知り、恵梨を脅迫し関係を持ってしまう。それを知った春次は……。

 登場する若者はいずれも裕福な家庭で育ち、好き放題な日々を送っている。劇中のセリフ「退屈」がキーワードだろう。「退屈だから女をひっかける」「退屈だからケンカする」「退屈だからヨットに乗る」。そんな言葉を発する彼らの日々は、どこか暴力的であり空虚さを背負っている。

 中平康監督の公開第1作だ。手持ちカメラによるスピーディでスタイリッシュな映像、煌めく夏の海。そして衝撃的なラストは、フランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダールら、ヌーヴェルヴァーグの作家たちに大きな影響を与えた。

 経済白書に「もはや戦後ではない」と記されたこの年、若者は自分たちの生き方を模索していた。それを鮮烈に体現したのが裕次郎だろう。慎太郎はこの作品をこう語っている。「あの時代にしか、あのようにしかあり得なかった私たちの青春を、あの映画はほとんど完璧に代表してくれている」(石原慎太郎『弟』幻冬舎文庫)。

70年代の夏休み

〇「色即ぜねれいしょん」(2009年)

 1974年。京都の仏教系高校1年生のひと夏を描く。みうらじゅんの自伝的小説を田口トモロヲが映画化した。

 乾純(渡辺大知)は、夏休みを友人の池山(森岡龍)、伊部(森田直幸)と隠岐島のユースホステルで過ごすことにする。3人はそこが“フリーセックス主義者”が集まる島と信じこんでいた。

 純はギターが好きで、ボブ・ディランに憧れている。通信講座で空手を習っているのは、「燃えよドラゴン」(1973年)のブルース・リーに影響されたからだ。深夜放送ラジオへの投稿が採用されて喜ぶ場面がある。リクエスト曲は、アルバート・ハモンドの「カリフォルニアの青い空」だ。70年代に若者が熱中した事柄が満載で、この頃に青春時代を送った人にはたまらないだろう。

 純たちが隠岐島に期待している背景には、当時の離島ブームがある。伊豆七島の新島を覚えているだろうか。「ナンパ島」などと呼ばれて男女の出会いの場として有名だった。純たちの意気込みは空まわりするが、海ではしゃいだりキャンプファイヤーで触れ合ったりと青春を謳歌する。

 ユースホステルのヘルパーに峯田和伸、純のヒッピーの家庭教師に岸田繁と魅力的なミュージシャンを揃えている。主役の渡辺は、当時高校3年生で2000人以上が応募したオーディションで選ばれた。尊敬する田口に会いたかったからだという。その後、俳優活動、ミュージシャン、映画監督など多方面で活躍しているのは言うまでもない。

 おバカで情けなくてちぐはぐな3人組。でも音楽や女性に純粋に情熱を傾ける姿は、70年代も今も変わらない。

稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集

デイリー新潮編集部