要介護の母の体に「つねられたような痣」、妻を見るとおびえて…それでも離婚できない50歳夫が年下女性と続ける「ベッド以外のデート」
【前後編の後編/前編を読む】同居を受け入れてくれた妻だけど…母を「こき使いすぎ」かもしれない 弟まで誘惑?「あの嫁には気をつけろ」50歳夫の違和感
野川剛徳さん(50歳・仮名)は、10歳のときに両親が離婚し、高校卒業後は建設会社で働きながら母や弟たちを支えた。大病を患った母と暮らし始めた30歳のころ、同い年でバツイチの由利さんを知人から紹介され、母との同居を受け入れてくれる彼女と結婚。二人の子どもに恵まれた。だが、家事と育児の多くを任せることになった母を、由利さんは「こき使って」いたらしく、やがて母は倒れてしまった。退院後も同居は続けたものの、自宅に招いた弟は「あの嫁には気をつけたほうがいい」と、由利さんから誘惑されたと告げた。妻への違和感を確かめられないまま、剛徳さんは生活を続けた。

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40歳でマイホームを購入するはずだったが、母の容態もあり、なかなか検討すらできなかった。家にケアマネやヘルパーが出入りするようになっていく。
「そのうちトイレに間に合わなくなり、僕は施設を考えるようになりました。認知症も進んでいた。でも由利は『なんとかなるわよ、もうちょっと家でがんばりましょ』って。その言葉につられて僕も頷いたんですが、さすがに夜中におむつがはずれたりするようになって、もう限界だと思いました。母の年金だけではどうにもならなかったんですが、預貯金を取り崩して、近所のグループホームに入れたんです。するとホームの係の方から、『あちこちに痣がある』と。年をとると毛細血管が切れて内出血することはあるけど、外からつねられたような痣だというんです。妻にその話をすると、『私は知らない』の一点張り。ヘルパーさんにつねられたのかなと冗談ぽく言ってみたら、『そんなことあるはずない。失礼よ』と。おそらく由利の仕業だと思います。言いなりにならない母が憎らしくなったんでしょう。そのころ由利は会社の介護制度を使って時短で帰ってきてくれたりもしていた。きちんとやらなければと思っているのに、意に反して母が言うことを聞かない。それでイラついたんでしょうね。そのとき、僕が由利にずっと感じていた違和感のようなものを、改めて感じました」
母の通帳を見ると…
由利さんは上昇志向が強い。そのためには努力を欠かさない。完璧を目指すタイプだ。だが実際、人生はそううまくはいかない。そのときに対処ができないのだ。目標値を下げるとか、適当なところで「ま、いいか」ができない。だから介護を完璧にやろうとして、そうはいかない母に腹を立てる。思い起こせば、子育てでもそんな面をちらっと見たような気がすると剛徳さんは言う。それをうまくカバーしてくれたのが母だった。
「もうちょっと僕がきちんとマネジメントするべきだった。そう思って反省しました。母の銀行の通帳を見ると、毎月、介護費用を除いた分がきちんと引き出されている。これはどういうことかと妻に聞いたら、お義母さんの食費だと。共働きだから、うちは財布が別だったんですが、由利はたぶん自分の通帳に入れていたんでしょう。これからはもっと費用がかかるからと、由利がもっていた母のキャッシュカードを取り上げました」
それから3年、母はホームで亡くなった。まだ70代に入ったばかりだった。
にこやかに穏やかに人を脅していく
剛徳さんはときどきホームを訪れて、車椅子に乗せて母を散歩させたが、由利さんは1度、顔を見せただけだった。実はそのとき、母が目を見開いて怖がったのを剛徳さんは目撃している。
「離婚も考えましたが、もし由利がひとりで子どもを育てることになったらと考えると、ちょっと怖くて離婚できなかった。由利はにこやかに穏やかに人を脅していくタイプだと思うんです。僕にはあまりそういう面を見せなかったけど、母にはそんな対応をしていたんでしょう。おそらく子どもたちにも似たような圧をかけているんじゃないかと思いました」
それからは子どもたちに積極的に話しかけ、何を考えているのか知るように心がけた。そのうち子どもたちのほうから「おかあさんのこういうところが嫌だ」といった気持ちを聞くことができるようになった。それとなく由利さんに話してみるが、彼女の心に届いているとは思えなかった。
「やっぱり根本的に合わないんだと感じるようになりました。妻とはそのころからどんどん気持ちが離れていっている。金曜の夜など、妻は遅く帰ることもありました。僕が早く帰って子どもたちと食事を作って一緒に食べるのがけっこう恒例になって、子どもたちは『今度の金曜日は何作る?』なんて言ってる。金曜日は、母親が仕事で遅くなるものと決めているかのようでした。妻にとっては、それもイラつく種だったのかもしれません。むしろあえて金曜日は早く帰らないと決めているみたいでした」
話し合ったほうがいいと思う時期は過ぎていた。このまま子どもたちの成長を待つしかないと剛徳さんは妻との接触をむしろ避けるようになった。
仕事相手との再会で…
「1年ほど前のことです。そのころから現場での責任者となり、ストレスもたまっていました。ある平日の夜、帰宅途中の乗換駅で降りてぶらぶら歩き、いい感じのバーがあったので入ったんです。気に入ったので、それから週に1回くらい通うようになった。いつもは1杯飲んですぐ帰るんですが、あるとき女性に呼び止められました。以前、建設現場で一緒に仕事をしたことのある施工会社の人でした。けっこう丁々発止やりあったこともあったんですよ。最後には『お互いにいい仕事をした』と認め合いましたが、印象に残る女性でした」
再会して世間話に花が咲いた。女性と話していて楽しいと思ったのは、もしかしたら人生で初めてかもしれないと剛徳さんは言った。佳菜子さんというその女性は剛徳さんより5歳年下の当時44歳。学生結婚をして出産したものの30歳で離婚、それからはひとりで子どもを育ててきたという。その子も今年大学を卒業したと話した。
「そんな苦労をしてきたとは見えないくらい明るくてパワフル。なにより正直でしたね。話していて嘘がない感じがした。つい妻と比べている自分がいました」
それから週に1度、そのバーで会うのが暗黙の約束となった。しばらくたって彼女から食事の誘いがあった。誘いを受け、剛徳さんは自分の気持ちを吐露してしまった。
「あなたのことが好きだと。だけどいわゆる男女の関係にはなれそうにない。自分が家庭に嘘をつきたくないのと、何かあったときに言い逃れができない関係をもつのが嫌なんだと。恋愛感情を持ったまま友だち関係でいたいけど、あまりに虫がよすぎるよね、と」
「ベッド以外のデートを」
彼女は笑いだしたという。なんて正直な人なの、と。それからいろいろ質問され、彼は妻への複雑な気持ちまですべて話してしまった。話したら、とてもスッキリしたという。
「じゃあ、ベッド以外のデートをしようと彼女が言い出しました。時間を作るのは大変だろうから無理のない範囲で。私もあなたのことが好きだけど、ベッドを共にしなければ保てない関係ではないとも思うって。すごいことを言う人だと感激しました」
以来、時間を作っては映画を観に行ったり、ときには童心に返って動物園に行ってみたり。限られた時間だからこそ、「何かを共有したい」という気持ちが強い。もちろん、そうやってともに過ごす時間が増えれば増えるほど、剛徳さんは佳菜子さんを好きになっている。
「ときどき悶々として眠れないこともあります。こうしている間にも彼女を好きになる男が出てきてさらわれてしまうのではないかと。恋人という関係になれないとすれば、いつ彼女の気持ちが変わっても不思議はない」
後ろ暗い関係になりたくない、子どもたちに嘘をつきたくない、妻に突っ込まれたときに下を向くような態度をとりたくない。彼にはさまざまな「自分の中の決めごと」がある。そしてなにより「結婚したら離婚したくない」という思いが強い。離婚家庭で育ったからなのだろうが、離婚したとはいえ、剛徳さんの両親の関係は決して悪くはなかったはずだ。
「両親はお互いにずっと惹かれ合っている面、許し合っているところがあったんでしょうね。だけど僕と由利の場合は、そういう関係ではない。法で縛られているからこその夫婦であって、離婚したら彼女は絶対に子どもとは会わせてくれないと思う。子どもたちに不自由な思い、寂しい思いだけはさせたくない」
下の子が20歳になるまでは
下の子が20歳になるまではと彼は思い続けている。あと4年だ。長年続いた妻との「仮面夫婦状態」は変わらないままだろうと彼は言う。彼から修復するきっかけを作るつもりはないし、そもそも何を修復したらいいのかもわからない。その場その場でクリアにしておくべきだったことも、今となっては山積しすぎて手をつけられない。そして今も、妻は金曜日の夜は遅くなることが多い。「どうして遅いの?」と聞くタイミングはとっくの昔に過ぎてしまった。
「佳菜子さんへの気持ちは、妻からの逃げではありません。佳菜子さんが本当に好きだし、できれば男女として関係を育てたい。でも……というところでずっと悩み続けているんです。彼女は『もう悩まないで。なるようになるわよ』って。彼女との時間だけは大事にしながら、子どもたちの行く末をサポートしたい。今はそれがいちばんの願いですね」
少し眉間にしわを寄せながら、「すみません、こんな話で」と恐縮していた剛徳さん。今後、いい方向に進んでいけますようにと祈るような気持ちで見送った。
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妻と離婚せず、佳菜子さんとも一線を越えないまま、剛徳さんは子どもたちが成長する日を待っている。記事前編では、両親の離婚を経験した少年時代から、母との同居を受け入れた由利さんと結婚し、妻への違和感を抱くまでを紹介している。
亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部
