(※写真はイメージです/PIXTA)

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働き方の多様化により、独立・起業という選択肢が身近なものになりつつあります。一方で、独立によって年金制度が変わり、万が一の際に遺族が受けられる保障も変わることを意識している人はそう多くないのではないでしょうか。52歳女性の事例をもとに、知っておきたい年金制度のポイントを辻本剛士CFPが解説します。

「老後もこのまま夫婦二人で」…理想の暮らしが終わりを告げた日

ミユキさん(仮名・52歳)は、関東にある分譲マンションに55歳の夫・コウジさん(仮名)と二人暮らし。子どもがいますが、すでに独立して家庭を築いています。

コウジさんは長らく企業に勤めていましたが、15年前に退職し独立。それからは、コンサルタントとして働いています。

一方、ミユキさんはパート勤務で、収入は月に数万円ほど。ただ、結婚当初から家計管理はコウジさんの役割で、生活費は毎月決まった額を夫から受け取っています。そのため、パート収入は趣味や友人との食事など、自由に使うことができました。

コウジさん​から渡される生活費は二人暮らしには十分で、好きに使えるお金もあり、生活に不自由はありません。「老後もこのまま夫婦二人で穏やかに暮らしていける」と、ミユキさんはそう信じて疑いませんでした。

ところが、その日常は突然終わりを迎えます。

ある日、ミユキさんがいつものように退勤しようとしたときのこと。「旦那さんが倒れた」と連絡があり急いで病院に駆けつけましたが、コウジさんは脳卒中でそのまま還らぬ人となったのです。

「引き出しの中身」に衝撃…遺品整理で知った「幸せな暮らし」の裏側

愛する夫の突然の死に、ミユキさんは動揺を隠せませんでした。

それでもなんとかお通夜や葬儀を終え、少しずつ気持ちが落ち着いてきたころ、ミユキさんは夫の遺品整理に取りかかりました。書斎の引き出しを開けると、銀行の通帳や金融機関から届いた封筒がまとめて保管されているのを発見。

「そういえば、夫の預金ってどれくらいあるんだろう」

なにげなく通帳を開いたミユキさんは、思わず息をのみました。なんと、どの通帳も残高が数千円程度しかないのです。封筒に入った金融機関からの利用明細には、カードローンやキャッシングの利用履歴が記載されていました。

「どういうこと……?」

その後、夫の知人などから話を聞いたところ、夫は独立当初こそ順調だったものの、10年くらい前から仕事が激減していたことが判明。それでも生活水準を落とさないよう、夫は借金をしながら毎月の生活費を工面していたといいます。借金は総額200万円まで膨らんでいました。

つまり、これまでミユキさんに渡されていた生活費は、夫の事業収入ではなく、借金で賄われた“見せかけのお金”だったのです。

さらなる悲劇…年金事務所で突きつけられた「まさかの現実」

ミユキさんの悲劇はそれだけでは終わりません。

「遺族年金があれば、なんとか生活できるかもしれない」と考えたミユキさんでしたが、年金事務所の担当者から告げられたのは残酷なひと言でした。

「ミユキさんが受け取れる遺族年金は、月約3万円の遺族厚生年金だけですね」

夫は15年前に独立して以降、国民年金に加入していた期間が長く、厚生年金の加入期間は18年間。そのため、加算給付の対象にもならないと説明を受けます。

借金は200万円。遺族年金は月約3万円※。頼りにしていた遺族年金も想像を大きく下回り、ミユキさんは将来への不安を隠せません。

「これから、どうやって生活していけばいいの……」

※ 「約3万円」は、下記の計算式に基づく。
41万円(標準報酬月額)×5.481/1000×216ヵ月=48万5,397円
48万5,397円×0.75=36万4,048円
36万4,048円÷12=30,337円

【CFPが解説】「中高齢の寡婦加算」の受給要件

配偶者を亡くした際に受け取れる遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。

遺族基礎年金は、国民年金に加入していた人が亡くなった場合に、遺された「子のある配偶者」または「子」の生活を支えるための制度です。一方、遺族厚生年金は、亡くなった方の厚生年金の加入実績に応じて支給される年金です。受給額は報酬額や加入期間によって異なり、基本的な計算式は次のとおりです。

【遺族厚生年金の計算式】

(1)加入月数が300ヵ月未満の場合:平均標準報酬額×5.481/1,000×300×3/4

(2)加入月数が300ヵ月以上の場合:平均標準報酬額×5.481/1,000×加入月数×3/4

※300月みなしは、受給要件によって適用されないケースがあります。

さらに、一定の要件を満たす場合は「中高齢の寡婦加算」という給付加算を受け取れます。2026年度の支給額は年額63万5,500円(月額約5万3,000円)です。遺族年金に上乗せされるため、のこされた家族にとって大きな支えとなります。

中高齢の寡婦加算の主な受給要件は次のとおりです。

・生計を同じくする子がいないこと

・40歳以上65歳未満で、生計を同じくする子がいない妻であること

・夫の厚生年金加入期間が20年以上あること

ミユキさんの場合、夫が独立後に国民年金へ切り替わっていた期間が長く、厚生年金の加入期間が18年間だったため、対象外となってしまいました。

会社員から独立を考えている場合は、厚生年金の加入期間を一度確認しておくとよいでしょう。20年まであとわずかであれば、20年を超えてから独立することも選択肢のひとつです。将来、のこされた家族への保障につながる可能性があります。

家計と年金は「任せきり」にしない

このままでは生活が立ち行かないと焦ったミユキさんは、生活を立て直すためにまずは現金を確保し、借金を返済することを優先することにしました。

住んでいた分譲マンションを売却し、その売却代金の一部で200万円の借金を完済。現在は賃貸住宅へ住み替え、パートの勤務時間も増やしながら新たな生活をスタートさせています。

今回のケースからわかるように、家計管理を配偶者だけに任せきりにすることは大きなリスクにつながります。預貯金や借入状況、毎月の収支などは、夫婦で共有しておくことが大切です。

また、会社員から独立するなど働き方が変わる場合は、年金制度への影響も事前に確認しておきましょう。制度を正しく理解しておくことが、自分や家族の生活を守る備えにつながります。

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP