カンボジアは特殊詐欺の温床として世界中から批判を浴びている

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 日本のみならず世界各国で多額の被害を生み続けている詐欺拠点。その乱立により批判を浴びるカンボジアでは、毎日のように警察当局による摘発が行われている。影響は国中に広がっており、世界遺産アンコール・ワットの観光拠点シェムリアップでも観光客が減り、かつてのような賑わいはない。"詐欺の国"の実情を取材した。【前後編の後編。前編から読む】

【写真を見る】「妖しげなネオンに照らされてるのに…」カンボジアの中心市街地の変わり果てた現状

「日本人や韓国人が消えてしまった」

 現地のドライバーはそう嘆息した。

 アンコールワットの入場券販売数を見ると、今年5月は3万7467枚。前年同月比29%減と大幅な落ち込みが続いている。日本人の購入は2695枚で、1日あたり約80人が訪れている計算になるが、4日間の滞在中、街中で日本人に会うことは一度もなかった。

 カンボジア在住歴30年で、現地の詐欺問題などを継続して取材してきた小市琢磨氏はシェムリアップの現状についてこう解説する。

「国境の街や首都プノンペンと違い、シェムリアップでの詐欺拠点摘発はほとんどありません。小さい一軒家での摘発はあったのでゼロではないのですが。当局の関係者や、中国人コミュニティーの情報筋などによると、組織が摘発を免れているということではなく、本当に詐欺拠点がほとんどないようです。この街では普通に暮らしていたら詐欺関係者と出会うことはないです」

 ただ、ゼロというわけではないようだ。匿名を条件に話してくれた日本人在住者は、街で起きた「不審な出来事」について語った。

「今年4月以降のことですが、複数の日本料理屋に不自然な注文が続発しました。高級な料理の大量注文でした。しかも、日本でいうところのUberのような宅配業者を使うのではなく、電話でお店に直接注文があったのが共通しています。スタッフがホテルへ届けに行くと、1人が階下に降りてきて、現金で支払ったそうです。この国では、今やもう何でもかんでもQR決済がスタンダード。現金での支払いなんてほとんどない。 

4月以降はタイ国境の街、ポイペトでの摘発が始まった時期なので、摘発から逃れて詐欺のかけ子集団がシェムリアップに寄ったんじゃないかとみられています」

 ほかにも市内各地の日本料理店でも"異様な人物"が目撃されている。

「黒のアルファードに乗り、拳銃をもったカンボジア人のガードマンを連れている男です。周囲に会話を聞かれないという安心感から個室を選んだのでしょう。明らかに堅気の人間ではないのに、それを隠そうともせず"オラついて"いたそうです。組織の上層部ではなくかけ子の集団だったのではないか。

 別の店では、刺青だらけの中国人集団が来店し、その中に少し日本語を話せる人間がいて『獺祭をもってこい』と注文したこともありました。彼は流暢には話さなかったようなので、日本人ではなくて中国人でしょう。なぜ日本語を使える中国人がこの国にいるのか。それは詐欺拠点にいて『指示役』だったからではないかと考えられます」

 ただ、このような人物たちはシェムリアップに長く滞在するわけではなく、次の場所に向けて移動し、いつしかいなくなっているという。過去にはアルファードの車内でかけ子をしていた集団が摘発された例もあり、彼らはとにかく人目につかないよう細心の注意を払っている。

 観光業は惨憺たる状況となっているなか、カンボジア政府は外国人観光客を増やそうと、6月15日から中国人だけを対象にビザなしで観光できるサービスを開始した。これだけ詐欺被害が発生していても、一番の"太客"は中国人のようだ。しかし、その効果はあまり出ていないようだと前出の小市氏は話す。

「中国人観光客が増えたという印象は特にありません。そもそも拠点を摘発して毎月1000人規模で中国に送り返しているのに、ノービザで歓迎していては、新しい詐欺関係者を呼び込んでいるだけのように見えてしまいます。元々は正規で入国してきて、不法滞在化して詐欺行為に手を染めているんですから……」

 現在のシェムリアップは日本人観光客にとってどうなのか。そう尋ねると、小市氏のほか、在住日本人らは以下のように口を揃える。

「自虐的ですが、非常におすすめです。もとよりアンコールワットなどの遺跡群は観光価値が非常に高い。それをこれだけ人がいない状況でゆっくり見られるんです。コロナ前なんかは、オーバーツーリズムの問題がシェムリアップでもありました。本来、遺跡は静かに見るところですから、その目的に適った観光が楽しめます」

 統計によると、コロナ前の2018年は年間約260万人の外国人がアンコールワットを訪れていた。月あたりで単純計算すると、約21万7000人だ。それが今年5月の入場券の販売実績は3万7467枚なのだから、かなり減ったことになる。

 円安である現状でも、ビールが1杯0.5ドルで飲め、アンコールワットもあるシェムリアップは本来、日本人にとってかなり人気の観光地だ。あまり知られていないが、キンキンに冷えた水風呂のある上質なサウナも安く楽しめる。

 ただ、一度ついた悪評はそう簡単にはなくならないだろう。かつての活況を取り戻すには、まだ時間がかかりそうだ。