「ナマケモノは意外と早起き」 [著]遠藤求

 いきものを知るための注目ポイントは数多(あまた)あるが、本書は「時間」や「時計」という馴染(なじ)み深い言葉を軸に、イルカやトナカイなどの哺乳類からオオカバマダラやミツバチなどの昆虫、光の届かない環境で生きる洞窟魚や地中のネズミまで幅広く紹介、いきものを多角的に捉えることがいかに重要か教えてくれる。
 我々ヒトは24時間という時間軸に則(のっと)り生活をしているが、それはヒトが作り出した社会によって構築されたものであろう。本書に登場する多くのいきものの時間や時計がどのように構築されているのかを知ることは、自分自身の「体内時計」と向き合うきっかけにもなる。体内時計をオーケストラに例えて、脳は指揮者の親時計、内臓や筋肉は演奏者の子時計とわかりやすく解説する手法が理解を助ける。
 本書でも紹介されているが、私が専門とするイルカ(実は一部の渡り鳥やアザラシも)は半球睡眠(左右の脳を交互に眠らせること)することで有名だ。全球睡眠(左右の脳が同時に眠る)する我々ヒトがその現象を想像することは到底難しいが、そこで起きる固定観念の崩壊こそ、他のいきものを知るきっかけになる。
 体内時計を決める周囲環境にも触れている。太陽の光や潮の満ち引きに加え、太古の昔、シアノバクテリアが光合成で酸素を出すようになると、彼らにとって毒である酸素を夜は出さないよう昼夜の区別という体内時計が登場したことは興味深い。結果として我々いきものの体内時計や自然の時間軸は安定化した。
 外部環境だけでなく、いきものの内部にも体内時計を決定する因子は豊富に存在する。たとえば、空腹(エネルギー補給の合図)、眠気(脳の酸素欠乏の合図)やホルモン(様々な体内機能が暴走しないように調整)によっても影響を受け、その調和は実に見事に、まさしくオーケストラのごとく巧みに嚙(か)み合っているのだ。
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えんどう・もとむ 奈良先端科学技術大学院大教授(植物生理学)。著書に『脳と体を整える体内時計のトリセツ』。