【内田恭子さんとはじめる「マインドフルネス」】ほんとの自分と役割に合わせた自分。いま、どちらで生きている?

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内田恭子さんの「ここからはじめるマインドフルネス」

NHK『すてきにハンドメイド』テキストでは、フリーアナウンサーとして活躍を続ける内田恭子さんによる、心ゆるむ「マインドフルネス」エッセイを2年目好評連載中。

暮らしにマインドフルネスを取り入れて、いつも頑張る頭や心、そして体を少し休めて、ちょっとひと息つきたい。そんな方たちに、連載を通じて役立つ気軽なスキルをお届けします。

連載第15回をWEB特別版として公開します。

#15 自分の帽子をかぶって

 先日、同い年の友人と話していたときのこと。「今年50歳、どうするよ」、「人生ようやく半分って長すぎない?」、「俺、まだまだローン残ってるぜ。いつまで働くんだよ」、「遠すぎる未来だね」。なんて、やりとりがありました。そう、いまや人生100年時代。「医療、技術、知識の進歩で未来が広がる!」。もちろん、それはそうですが。あと50年も日々衰えていく体で頑張り続けるなんて……。正直プレッシャーです(笑)。

 だから私は、人生の残りの時間を考えながら暮らすよりも、今の自分がどう生きたいかを考えて毎日を過ごしていくほうが、ずっと楽しい気がしています。そして、その毎日の積み重ねが最終的に人生としてつながっていけばいいですよね。

 とはいえ、私たちの日々は慌ただしくて、「人生」やら「どう生きるか」、なんてことを考える時間すらなかなかありません。たとえば私の場合、朝起きたときはすでに「母」を生きていて。子どもたちに支度をさせ、お弁当を作って、せき立てるように見送って。そして次の瞬間には「妻と母」の両方になり、家事をしたり、食材の買い出しに行ったり。そんな中、マネージャーさんから連絡が入り、「アナウンサー」に早がわり。次の瞬間には、「マインドフルネス講師」として授業の資料作りやセッションをし、そうこうしているうちに、あっという間に夕方。すると、また「母」に戻って「夜ご飯どうしよう」と焦り始める。

 1日の終わりには、終えられなかった家事や仕事、友人との連絡ですべての役割がぐちゃぐちゃになり。疲れ果てて「とりあえず、今日も終わったー」とベッドに倒れ込む。そのときふと、「あれ? 今日、私の時間はあったっけ?」となります。

 英語では、このように職業上の視点や特定の役割に合わせてふるまうことを「wear one’s hat(自分の役割の帽子をかぶる)」なんて言い方をします。ただ、あまりにも多くの帽子をかぶり過ぎると、精神にも体にも影響が及ぶことがあります。

 心身ともに疲労がたまったり、相反する多くの要求に応えようとし、思わぬミスが増えたり、集中力が低下し意思決定力やパフォーマンスが下がったり。多くの文脈を処理しようとするあまり、脳が対処しきれず深く考えられない状態になるときもあります。

 さらに大切なのは、役割の帽子をたえず切りかえていると、どの役割のときも、今この瞬間と向き合うことが少なくなります。すると、慢性的な焦燥感や、常に時間に追われている感覚にも陥りやすくなるのです。

 私は子どもたちが小学校受験をした数年間、朝から晩まで母親の帽子で過ごした時期がありました。仕事もセーブし、常に子どものこと、スケジュールのこと、幼稚園のこと、子どもにとってよいこと、子どもの将来のことばかり考える日々。その数年間が終わり、「ようやく本来の自分に戻れる!」と喜んだのも束の間……。「本当の私って、どんなだっけ?」と焦ったことがありました。

 もちろん、子どもたちとの濃密な時間は何ものにもかえ難い経験とはなりました。でも、あまりにも世間が考えるよい母親でいることが当たり前になり過ぎて、すべてのことを母親として体験し、見て、感じて、考えて。私個人として世界を感じる、そのあり方を忘れてしまったようでした。

「本当の私って、何?」と真剣に訴え、友人に笑われたことも。そのときにかけられた「恭子は恭子だよ」という言葉で、重い荷が肩から下りたような気持ちになり、ホッとした記憶があります。

 それ以降は「私=母親だけではない」ということをしっかりと意識するようになりました。「忙しくて……」というのは、私の中ではただの言い訳。私という帽子をかぶる時間を確保するのも、大切なことです。 

 そしてその時間で、今の自分がやりたいと思うことや好きなことをするのです。たとえば、ずっと後回しになっていたやりたいことをやってみる。それが難しければ、それについて考えたり、調べてみたり、計画してみたりするだけでもいいと思います。どんなささいなことでもとりあえずやってみる。

 私にとっては、マインドフルネスもその1つです。20代の頃から興味があって、でも忙しさを理由に後回しになっていた心理学の勉強を始めたのがきっかけで、マインドフルネスに出会いました。

 マインドフルネスとリーダーシップの関係性を学んでいる中で、ハッとしたことがあります。リーダーシップというと、私たちは組織だったり、チームだったりを想像しがちです。でも、人生にもリーダーシップは必要だということ。そして、人生のリーダーシップを取れるのは、その人自身しかいません。

 自分の人生をどう生きたいか、どのような道を歩みたいのか。それはその人自身にしか見えないことであり、その人にしか選択ができないことです。会社が、組織が、家族がその人の人生を歩むことはできません。
だからこそ自分の帽子をしっかりとかぶって、自分が何を考え、何をしたいのかに向き合う時間が大切なのかもしれませんね。

 そうしたらきっと、何歳になっても人生を楽しめるはず!

◆トップ写真・プロフィール写真提供/内田恭子
◆バナーイラスト/山本祐布子

プロフィール

内田恭子(うちだ・きょうこ)
フリーアナウンサー、マインドフルネストレーナー。慶應義塾大学を卒業後、フジテレビアナウンス室に入社。退職後、フリーアナウンサーとして活躍するかたわら、マインドフルネスに出会う。IMA(Institute for Mindfulness-Based Approaches)認定MBSR・OMF(Oxford Mindfulness Foundation)認定MBCT-L(Mindfulness-Based Cognitive Therapy for Life)講師。日本マインドフルネス学会正会員。

内田さんが主宰する「kikimindfulness」
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