「大川原化工機」冤罪巡る国賠訴訟で遺族側、病死した元顧問の身柄拘束は「裁判官の誤った判断」…国側は争う姿勢
精密機械製造会社「大川原化工機」の冤罪(えんざい)事件を巡り、保釈が認められないまま病死した元顧問(当時72歳)の遺族が国に損害賠償を求めた裁判が29日、東京地裁で始まった。
遺族側は「裁判官の誤った判断で早期に希望する治療を受けられなかった」と主張しており、裁判所の判断が注目される。(中村俊平、中川慎之介)
「検察の言うことをうのみにした」
「裁判官は検察の言うことをうのみにして保釈請求を却下し続けた」。同地裁で同日午前に開かれた第1回口頭弁論。同社元顧問・相嶋静夫さんの長男(52)は地裁の法廷で意見陳述に立ち、訴えた。
同社の技術者だった相嶋さん。顧客のニーズに向き合い、精密機械の製品開発に情熱をささげた。だが、2020年3月、生物兵器に転用可能な装置を中国に不正輸出したとする外為法違反の容疑で、警視庁公安部に逮捕され、その後起訴された。
刑事訴訟法は、容疑者が罪を犯した疑いがある場合、検察または警察の請求を受けた裁判官が逮捕状を発付すると規定。被告に罪証隠滅の恐れがある場合は勾留できると定めており、保釈が認められるまで身柄拘束が続く。
長男は「警察の筋書きには違和感を持ったが、裁判官の判断で認めた逮捕なので会社側に落ち度があったのかもしれないと思った」と振り返る。
病気でも保釈されず
相嶋さんは、容疑を認めないまま、地裁裁判官の決定で勾留され、身柄拘束が続いた。弁護人が「高齢で持病もある」として保釈を請求したが、東京地検は反対し、地裁裁判官も「罪証隠滅の恐れがある」などとして認めなかった。
同10月、勾留先の東京拘置所の検査で胃がんの疑いがあることが判明。約2週間の勾留停止(その後延長)を認められ、翌月に入院したが、がんはすでに肝臓に転移し、余命半年から1年半と宣告された。7回目の保釈請求も認められず、21年2月に病院で亡くなった。長男は取材に「罪証隠滅の恐れがどこにあったのか」と憤る。
検察側はその5か月後、同社社長らの起訴を取り消した。25年8月、対応に問題があったことを認める検証報告書を公表し、検事が病状を拘置所に確認せずに保釈請求に反対したことを謝罪した。
遺族側は訴状で相嶋さんの逮捕や勾留は認め、保釈は認めない判断に関わった裁判官は計37人に上ると指摘。「より早期に適切な医療を受け、もっと長く生存できた可能性がある」としている。長男は取材に「裁判官はなぜ身柄拘束を認めたのか説明責任がある」と話した。
一方、国側は答弁書で請求を棄却するよう求めている。
「前例踏襲の面は否めず」
被告の身柄拘束を巡り、裁判官の判断に厳しい目が注がれており、裁判所内でも危機感が高まっている。
今崎幸彦・最高裁長官は、5月の憲法記念日を前にした記者会見で「身柄に関する判断の重大性は、裁判官全員が重々承知しておかなければならない」と強調。判断をより良くする方法を問われると「裁判官の自律に任せるしかない。本人の研さんや裁判官同士の議論が重要」との考えを示した。
司法統計などによると、1審判決までに地裁で保釈された割合(保釈率)は、05年の13%に対し、25年は32%に上昇した。ただ、起訴事実を争う被告の保釈は認められにくく、25年の保釈率は、自白事件の34%に対し、否認事件は27%だった。否認した場合の身柄拘束の長期化について「人質司法」との批判が上がる。
最高裁は1月、保釈の運用を議論する研究会を開き、刑事裁判官約70人がオンラインで参加した。講師を務めた東京地裁の友重雅裕裁判官が、検察官に罪証隠滅の懸念点を尋ねたり、弁護人に逃亡や罪証隠滅の対策を検討するよう促したり、コミュニケーションを図ることを提唱した。受け身の姿勢を改め、身柄拘束の必要性をより吟味する狙いがあるとみられる。
ベテラン刑事裁判官の一人は「前例踏襲で拘束を続ける判断をしてきた面は否めない」と反省を口にしつつ、「今後、拘束の必要性を厳格に判断する流れが強まるだろう」と語る。
◆保釈=被告の身柄拘束を判決前に解く制度で、弁護人らから請求を受けた裁判官が検察側の意見を聞いて可否を決める。保釈決定後、被告は保釈保証金を納め、一定の条件で自由に生活できる。2019年に日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告が保釈中に海外逃亡して問題となり、全地球測位システム(GPS)端末の装着など逃亡防止策の導入が決まった。

