『兵庫県告発文書問題 なぜ日本を揺るがすのか』/奥山俊宏・著

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【書評】『兵庫県告発文書問題 なぜ日本を揺るがすのか』/奥山俊宏・著/岩波書店/2970円

【評者】津村記久子(小説家)

 あなたが職場で看過できない上役の不正を見かけたとする。上層部に訴えても握り潰されるため、限られた外部のマスコミや取引先に、その内情を記した文書を送る。しかしその文書は、当の上役や上層部の知ることとなり、あなたは脅され、身の回りの物を押収され、身辺を徹底的に探られる。上層部はあなたが嘘をついているから調査すると取引先等に大々的に知らしめる。しかしそのことにより、取引先等は職場の不正に興味を持つようになり、上層部の旗色が悪くなる。彼らは、あなたの身辺調査で出てきた過去の職場恋愛における私的なメッセージや画像を取引先等に見せて回り、あの人はこんなことをしてたんですよ、どう思う? とあなたの信用を貶めようと執拗に試みる。あなたは次第に追いつめられていく……。

 亡くなられた元西播磨県民局長に起こったことを一般化すると、こんな感じだろうか。この流れの中で、問題を大きくしているのは誰だろうか? 本書は改めて問いかける。

 二年の間に複雑化して情報が散逸し、どこから考えればいいのかがわかりにくくなっていた兵庫県知事を巡る告発文書問題が、百条委員会で参考人として発言した奥山俊宏さんによって一本の流れにまとめられたのが本書だ。たった二年の間に、この厚みの本になるまでの夥しい事案が引き起こされたこと自体が異常と言えるだろう。

 告発を嘘八百と記者の前で断罪する最初の嘘が、吹き荒れる嘘とデマの暴力の火種になったことが、本書では改めて明示される。そして嘘は嘘とデマを拡大生産する。百条委で「公益通報者保護法違反が疑われる」とされ、消費者庁から「適切な対応を」と促されても、「適法適切に対応した」という欺瞞が続く。本書の緻密な検証が、今後の嘘を防ぎ、最初の嘘がいつかは裁かれることを切に願う。

※週刊ポスト2026年7月10日号