除草剤の影響「わざと」ではなくても、損害賠償の対象?(mosaku / PIXTA)※写真はイメージ

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今月9日、営農者とみられる人がSNSに「知らなかったでは許されないぞ。隣の家から除草剤流れ出して稲が枯れ始めている」という投稿をして注目を集めた。

投稿者は隣家の住民と話がついたのか今は投稿を削除しているが、この投稿に対しては「除草剤の被害はよくある」「(うちの田んぼも)おなじことがあった」などと反応する人もおり、決して“特殊な被害”ではないようだ。

「普通に損害賠償請求案件」という声がある一方で、「(除草剤を)撒いたのは隣の人の敷地内だから問題無いんじゃないの」など疑問を持つ人もいた。

不注意でも民事上の賠償責任を負う可能性

今回のような場合、たとえ“意図していなくても”除草剤を散布した人の落ち度になるのか。民事事件に多く対応する荒川香遥弁護士弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)は、刑事責任と民事責任を分けて次のように説明する。

「刑事責任については、他人の物を壊した場合の器物損壊罪は『わざと』やった場合にしか成立せず、不注意で隣の農作物を枯らしてしまっても刑事罰を受けることは基本的にありません。

一方、民事の損害賠償は話が別です。不注意(過失)でも、雨や風で除草剤が隣に流れることが予測できたのに対策を怠ったといえれば、民法上の不法行為として賠償責任を負います。

『そこまで考えていなかった』では免責されず、田畑に隣接した場所での散布であれば、流出への配慮を欠いたとして過失が認められる可能性は十分にあります」

出荷予定の稲なら、売れるはずだった収入も損害に

請求できる損害賠償の金額は、被害の対象によって大きく異なる。

仮に枯れてしまった植物が、趣味で育てている程度のものであれば、その損害は苗代程度にとどまるという。しかし、営農者が出荷予定で育てていた農作物であれば、「売れば得られるはずだった収入そのものが損害になる」として荒川弁護士は次のように続ける。

「万一、使用された除草剤が農地に使えない『非農耕地用』だった場合には、残留の懸念から枯れていない農作物まで出荷を断念せざるを得なくなることがあります。

その場合、廃棄した分や出荷できなかった分も損害として請求できるため、結果的に除草剤を散布した人の賠償責任はさらに重くなると考えてよいでしょう」

故意であれば器物損壊罪や業務妨害罪の可能性も

中古車販売大手の旧ビッグモーターが2024年、埼玉県内の2店舗の前に植えられていた街路樹に除草剤をまいて枯らせていた事件も記憶に新しい。

今回のケースには該当しないだろうが、“意図的”に他人の田畑に除草剤をまいた場合はどうなるのだろうか。荒川弁護士はこう説明する。

「前出の通り、『わざと』他人の田畑に除草剤をまいて農作物を枯らせば、器物損壊罪(3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料)が成立します。

また、散布するために柵で囲われた敷地などに無断で立ち入れば住居侵入等の罪(3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)、出荷を妨害する目的があれば偽計業務妨害罪(3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)に問われる可能性もあります」(荒川弁護士

旧ビッグモーターの事件では、街路樹を管理する埼玉県とさいたま市が警察に被害届を出していたが、「同社から謝罪や原状回復費の支払いがあった」などとして告訴はしなかった。器物損壊罪は親告罪のため、告訴がなければ起訴できず不起訴になった。

感情的になる前に第三者の介入を

他人がまいた除草剤により自分の育てていた農作物が被害に遭ってしまった場合、被害者はまず何をすべきだろうか。

荒川弁護士は、何よりもまず「証拠を残すこと」が大切だと強調する。

「枯れた範囲や境界の位置関係を日付がわかる形で写真・動画に収め、可能であれば土壌や農作物の成分分析も検討してください。営農者であれば、あわせてJAや自治体の農政担当窓口に相談し、被害状況を記録に残しておくと後の交渉で役立ちます。

そのうえで、隣家との話し合いがまとまらない場合は弁護士などに相談するのがよいでしょう。感情的な対立になる前に、早めに第三者を入れることをおすすめします」(荒川弁護士

なお、農林水産省は「除草剤の販売・使用について」(https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/herbicide.html)というページを設置。その中で「ラベルに書いてある注意事項を守り、周辺の田畑や住宅地などに除草剤を飛散させないよう注意しましょう」と呼び掛けている。