林廻(rinne)「BED」

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 神戸・六甲山上を“ミュージアム”とし、日本を代表する美術家や気鋭アーティストらの作品を紹介する現代アートの芸術祭「神戸六甲ミーツ・アート2025 beyond」が人気だ。16回目を迎えた本年は、過去最多となる61組の作家が参加。斬新かつ多彩な表現が自然の中に溶け込み、アートの魅力をさらに引き出している。会期は11月30日(日)まで。

 見どころの一部をおおむねエリアごとに3回に分けて紹介する。

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中村萌「Silent journey」

■ミュージアムエリア(ROKKO森の音ミュージアム・六甲高山植物園・新池)[2]
 六甲高山植物園は海抜865メートルの六甲山頂近くに位置。世界の高山植物や寒冷地植物など約1500種を栽培している。

 園内の池でくっきりと白い半球の姿を見せるのは遠山之寛が手掛けた「(semi) sphere」。石灰石由来の紙と折り紙構造によって、繊細でやわらかな印象のフォルムを持つ同作は、水面に映り、完全な球にも見える。その姿は水草や周囲の木々と調和し、まるで太古からそこにあったかのようなナチュラルな存在感を醸す。

遠山之寛「(semi) sphere」

 Studio SHOKO NARITAによる「Aのためのオマトディウム」は、アジサイの花を想起させるインスタレーション。緑の中で、虫の眼のように周囲の光を淡く映し出す。作者は「光を見つめることによって生じる、未知なる感情との邂逅こそが『眼で見る』行為の真髄」と語る。

 サウンド・アーティスト、ヘルマン・ファン・デン・マウイセンベルグは、公募で選ばれた1人。サウンドインスタレーション「Phonic Movements」を出展した。六甲山で聞こえる風の音、鳥の声などを録音し、デジタルアルゴリズムによって視覚的パターンを模索しながら作曲。来場者は自然の音とデジタルで変化した音の両方に包まれ、人と自然、テクノロジーの新しい関係を感じ取る体験ができる。

Studio SHOKO NARITA「Aのためのオマトディウム」
ヘルマン・ファン・デン・マウイセンベルグ「Phonic Movements」

■トレイルエリア
 所々にうっそうとした林、急勾配もある。「山道を進んでいる」という実感が湧くエリアだ。履き慣れた運動靴、日焼けと虫除け対策になる長袖長ズボンで臨みたい。

 森の中に突如として現れるベッドは、作品名も「BED」。アートやデザインを通じて、森林保全に欠かせない間伐の重要性を社会に伝え、間伐材の新たな価値を探る集団「林廻(rinne)」が制作した。林廻はインテリアデザイン、ファッション、アートディレクションなど、多様な領域で活動するグループ。ベッドの上にはたくさんの枕が積まれ、手入れされず過密になり、バランスを崩した森の姿を比喩的に表現している。休む場所が快適でなくなるように、自然も手入れされないと健やかさを失うことを表現した。作品の素材には間伐材のほか、古い神戸の洋家具の一部も使った。

林廻(rinne)「BED」

 六甲山は関西有数の別荘地としても知られる。1895年にイギリス人が最初の別荘を建て、明治30年代初めには山上に20〜30軒ほどの外国人の別荘があったという。その後、日本最初のゴルフ場「神戸ゴルフ倶楽部」が発足、外国人の別荘ばかりでなく、神戸付近の日本人富裕層らの別荘も次々とできた。

 ある山荘の敷地内に小谷元彦の「孤島の光 (仮設のモニュメント7)」がある。一見、女性が横たわる古典的な彫刻だが、顔の上半分が崩れたような造形で、頭部に青い鳥、体には青いチョウがとまり、独特な雰囲気を漂わせている。体全体からあふれる水の表現は、浄化を意味しているという。家族が集った時間が過ぎ去り、静寂の時を迎えた空間に寄り添う、神秘性をたたえた作品だ。

小谷元彦「孤島の光 (仮設のモニュメント7)」

■みよし観音エリア/六甲ガーデンテラスエリア
 みよし観音エリアに入ってすぐに目に飛び込んでくるのは、額にいくつものしわを刻んだ巨大な高齢者の頭部(の立体作品)。そのタイトルも「じいちゃんの鼻の穴に宇宙があった。」とインパクトが大きい。「昼寝をしているじいちゃんの鼻の穴をのぞいたら宇宙が見えた」というコンセプトの作品で、作者は佐藤圭一。横たわった頭部の近くに寄り、どうしても鼻の穴をのぞきたくなる衝動にかられる。穴の中にはたしかに「宇宙」が広がっている。一見の価値あり。

 少し小高い場所に進むと、インフィニティの形に石が敷き詰められている。山田愛の「永遠なる道」は、かつて別荘があった地につくられた。石は瀬戸内海で産出されたサヌカイト。サヌカイトは1300年前に生まれ、石器としても利用、人類が生命をつなぐ道具として重要な役割を果たしてきた。作品の上を歩くと音が鳴り、悠久の時間のほんの一瞬、私たちが存在していることを実感させてくれる。

佐藤圭一「じいちゃんの鼻の穴に宇宙があった。」
山田愛「永遠なる道」

 屋外のモニュメントや街灯などを取り込んだ部屋をつくり、リビングルームとして公開するなど、公共空間を舞台とした大胆な作品で世界的に知られる西野達。西野は今回、2つの作品を手掛けた。1つは六甲山の一角に置き去りにされた古い電灯を利用、一時的に車道の真ん中に移動させて歩道を歩く人を照らすように設置した作品。もう1つは横断歩道に頭部と脚、尻尾を描き足してシマウマに見立てたもの。「独り立ち」「逃げたくても、逃げられやしない」と題した両作だが、安全上、すぐに作品を撤去しなければならなかったため、写真パネルでの展示となっている。

西野達「逃げたくても、逃げられやしない」(左)、「独り立ち」(右)

【3】に続く