『光る君へ』写真提供=NHK

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 『光る君へ』(NHK総合)第39回「とだえぬ絆」。中宮・彰子(見上愛)が2人目の皇子を出産する。

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 公任(町田啓太)、斉信(金田哲)、行成(渡辺大知)、そして俊賢(本田大輔)が次期皇位について話す中、道長(柄本佑)は「できれば俺の目が黒いうちに、敦成様が帝とおなりあそばすお姿を見たいものだ」と口にした。

 道長は、自身の血を引く天皇の誕生を意識し始めている。一方、まひろ(吉高由里子)は帰省し、道長からまひろの娘・賢子(南沙良)への裳着の祝いの品を持ち帰る。久々の家族団らんの場で、弟の惟規(高杉真宙)は賢子(南沙良)の父親が道長であることを為時(岸谷五朗)にバラしてしまった。

 第39回では、南沙良演じる賢子や道長と倫子(黒木華)の次女で、彰子とは性格が異なる妍子(倉沢杏菜)が初登場を果たした。

 賢子とまひろの溝はいまだに埋まらない。賢子はまひろと目を合わせず、裳着の儀式が行われた日も「母上と同じ道を行きたくはございませぬ」と強い意志を示した。ただ、為時が「頑固なところはまひろによく似ておる」と言うように、彼女の口調や姿勢にはまひろによく似た部分がある。賢子を演じる南の反抗的な表情や態度には、まひろらしさとまひろに反抗する賢子らしさが見事に表れていた。

 倉沢杏菜演じる妍子も強く印象を残した。東宮・居貞親王(木村達成)の妃となるのだが、東宮がはるかに年長であることに不満を抱いており、その不満をあけすけに語る。彰子も自分も父の道具だと言う妍子に、まひろが口を挟むと、「何かうるさい、この人」と口を尖らせた。かつての彰子と違い、妍子は自分の感情をありのままにさらけ出す。倉沢はまだ幼い部分のある妍子の素直さと危うさを、不服そうな面持ちや東宮の第一皇子である敦明親王(阿佐辰美)をじっと見つめる意味ありげな視線を通じて表している。彼女もなかなか一筋縄ではいかない人物となりそうだ。

 賢子や妍子といった人物が登場した一方で、第39回では伊周(三浦翔平)と惟規がこの世を去る。

 道長を呪詛することだけが生きる支えとなっていた伊周は、前回、道長の目の前で呪詛の言葉を繰り返した際、すでに体調を崩していた。その最期は無念さをにじませるものでもあったが、栄華を極めた頃を思い出すように亡き定子(高畑充希)の声に応える姿を見ると穏やかな最期だったともいえる。

 他方で、惟規の死はまひろたちにとっても視聴者にとっても突然だった。

 惟規は、生真面目なまひろとは対照的に、おおらかで飄々とした性格だ。演者である高杉は、そんな惟規の個性をリラックスした佇まいとのんびりした口ぶりで表していた。そのため、惟規はまひろと関わりのあるキャラクターの中で最も打ち解けた様子で話す。姉弟のやりとりで心に残っているのは、まひろに『源氏物語』が舞い降りた第31回での言葉だ。「自分らしさ」について聞き出すまひろに、惟規は遠慮がない。

「そういうことをぐだぐだと考えるところが姉上らしいよ。そういう、ややこしいところ、根が暗くて、鬱陶しいところ」

 なかなかな言いっぷりだが、微笑ましく映ったのは、姉弟が気兼ねなく話せる関係だからこそ。第39回でも、2人はリラックスした様子で思い出を語っていた。惟規は、まひろの裳着の時、まひろと為時の仲が最悪だったと振り返る。惟規はのんびりした口調で「親子って変わらないようで、変わるんだな~」と口にした。この言葉は、姉や父の生き様、道長のまひろへの思いなどを心穏やかに見つめてきた弟らしい背中の押し方ともいえる。姉を見て微笑む惟規の顔つきは優しい。賢子とまひろの仲がいずれよくなると、心の底から思っていることが伝わってくる。

「きっと……みんな、うまくいくよ」「よく分からないけど、そんな気がする」

 惟規の言葉に、まひろは「何それ……」「調子のいいことばっかり言って……」と怪訝そうな顔を浮かべる。けれど、何事もうまくいくことを信じるように笑いかける弟の表情に、まひろはうなづき、同じように笑った。姉弟の間に平穏で幸せな時間が流れる。

 しかし、為時の供をして越後に向かう道中で、惟規は病に倒れ、息を引き取った。息も絶え絶えに辞世の歌を残す場面、そして彼が遺した歌はあまりにも悲しく、胸が詰まる。

 高杉は公式サイト内のキャストインタビュー動画「君かたり」にて、惟規について「家族以外でも人に愛されてきたキャラクターだったなって思いますね」「いろんな人からの愛をたくさん受けたキャラクターでした」と語っている。また最期については、「心残りっていうのはたぶんたくさんある」と話しながらも、「『うまくいくといいな』と思っていますね」「いとも乙丸もそうですけど、道長さんとかもね、全部うまく丸く幸せに生きてほしいと思っていますね」とコメント。

 惟規は微笑むような面持ちでこの世を去った。高杉が演出とともに表現した惟規らしさである。

 惟規の何としても生きて帰りたいという願いは叶わず、胸に穴が空いたような幕引きとなった第39回。救いだったのは、涙するまひろに賢子が寄り添ったこと。惟規が信じた母と娘の関係は形となって表れた。

(文=片山香帆)