ホンダがついに、SUVテイストの軽スーパーハイトワゴンを発表か? そんな気持ちで新型車「N-BOX JOY」の事前撮影会に参加したのだが、いい意味で肩すかしを食らった。このクルマ、いわゆるガチガチ、ゴリゴリのSUV系ではなかったのだ。N-BOX JOY投入の狙いとは?

ホンダが9月27日に発売する「N-BOX JOY」

SUVテイストな軽ハイトは強敵ぞろい

背が高くて両側にスライドドアの付いた軽自動車は「軽ハイトワゴン」とか「軽スーパーハイトワゴン」などと呼ばれていて、とても人気がある。この分野では1台のクルマに「標準タイプ」と「カスタム」(押し出し強め、いかつい)をラインアップするのが定石だったのだが、スズキが「スペーシアギア」を投入して「SUV系」の可能性を明らかにした。三菱自動車工業「デリカミニ」やダイハツ工業「タント ファンクロス」も「SUV系の軽スーパーハイトワゴン」である。







左から「スペーシアギア」「デリカミニ」「タント ファンクロス」

軽スーパーハイトワゴンで(というか、日本の新車販売で)最も売れているのがホンダの「N-BOX」だ。ただ、このクルマにはこれまで「SUV系」の派生車種がなかった。「N-BOX JOY」(ジョイ)の事前撮影会があると聞いて「いよいよか」と思ったのはそのためだ。

撮影会場の「COMORIVER」(埼玉県ときがわ町にある宿泊施設)で待っていたのが、このクルマである。







SUV系にしては見た目のパンチが弱め? ホンダの新型車「N-BOX JOY」

アウトドアの敷居を下げるクルマ?

ホンダではジョイの開発にあたり入念に調査を行ったそうだ。その結果、軽ユーザーが「アウトドア」に求める価値は必ずしも本格的なもの、例えば「山に行く」とか「林道を走る」とかいったようなことではなく、「自然の中で(あるいは日常生活の延長線上で)リラックスしたい」というものであると判明。特に20代ではその傾向が顕著だった。

こうした調査結果を踏まえて作ったのがジョイだ。「他社同様のSUVライクな方向なのか、新たな方向の派生なのか」については時間をかけて議論したと開発責任者の諌山博之さんは振り返る。

後席をパタンと前に倒すだけで、チェック柄の(ほぼ)フラットな床のある広々とした空間が出現するのがジョイ最大の特徴。普通なら「荷室」と呼ばれるこの空間を、ホンダでは「ふらっとテラス」と名付けた。チェック柄はレジャーシートによく用いられる柄であることから採用したそうだ。







チェック柄が印象的な車内。後席を前に倒せば座ったり寝転がったりしてくつろげる「ふらっとテラス」が出現する

クルマに乗っていて気になる場所、例えばちょっとした木陰とか、静かな河原とかを通りがかったときに、そこにクルマをとめて、後席を倒して車内でくつろげば、それはすでにピクニックであり、アウトドアだ。ふらっとテラスの床下には、モノを入れておける「フロアアンダーボックス」なる収納も付いている。ちょっとした折り畳み式の椅子でも積んでおけば、どこでもチェアリングを楽しめる。







「ふらっとテラス」の床をフラットな状態に近づけるため、「N-BOX JOY」では荷室の後ろの方の床面を「N-BOX」比で80mmも高くしている。かさ上げによって生じた床下のスペースに、取り外し可能でお手入れも簡単な「フロアアンダーボックス」を取り付けたのがホンダらしい工夫だ

歴代N-BOXユーザーに味変を提案?

いい意味で「ゆるい」アウトドア系の軽スーパーハイトワゴン。それがジョイだ。ホンダとしては、こうした価値観に共鳴してくれそうな「20代の若者」をコアユーザーに据えつつ、彼らと共通の価値観を持つ「プレファミリー」「50〜60代の夫婦」などもターゲットユーザーとして視野に入れている。

いわゆるSUV系(アクティブ系)の軽スーパーハイトワゴンという分野ではかなりの後発になるので、ホンダでは競合車種の研究もしっかりと行ったらしい。デリカミニのようなバリバリの軽SUVと同じ土俵には立たない、あるいは、立ったとしてもがっぷり四つには組まない。まさに肩すかしのような戦略だ。

そもそも、本格的なクルマで本格的なアウトドアを楽しもうという人は軽スーパーハイトワゴンを選ばないはず。このくらいの楽しみ方でほとんどの人には十分なのかも

N-BOXは人気車種であるがゆえに、保有台数は256万台とかなりの数になっている。初代から2代目へといったように、N-BOX同士で乗り継ぎを行っているユーザーも多いそうだ。そういう人たちが、「さすがに3台も同じクルマを乗り継ぐのはどうだろう」と考えてしまう(N-BOXに飽きてしまう)可能性もある。3代目N-BOXで初登場となったアウトドア系のジョイは、N-BOXが気に入って乗り継いできた熱心なユーザーへの「味変」(あじへん)の提案にもなっている。

3代目「N-BOX」の集合写真。左から標準車、ジョイ、カスタム。3代目の企画当初からこれら3種類のラインアップにすることは決めていたそうだ

それともうひとつ、3代目N-BOXでは従来、丸目(丸いヘッドランプ)の標準車にターボエンジンを組み合わせることができなかった(ターボを選べるのは四角い目の「N-BOX カスタム」だけだった)。なので、「顔は丸目が好きだけど、エンジンはターボがいい」という人にはピッタリくる選択肢がなかったのだが、ジョイには自然吸気とターボがある。つまり、N-BOXで「丸目(ジョイ)のターボ」が選べるようになったわけだ。これは、けっこう大きいように思える。

「N-BOX JOY」の登場により、丸目の「N-BOX」にターボエンジンを組み合わせられるようになった。写真はホンダアクセスの純正アクセサリー「ACTIVE FACE PACKAGE」でグリルを変えた車両。「HONDA」ロゴがシブい

ジョイはゆるい雰囲気でありながら、緻密で戦略的な計算が背景にある1台だ。もちろん、ホンダが全力で作ったゴリゴリSUV系のN-BOXが見たかったという人もいると思うが、実物を見て開発陣の話を聞いた限りでは、うまい位置づけのクルマだなと思えた。

今のところ、N-BOXの販売はカスタムが6割、標準車が4割という内訳。カスタムは184.91万円〜236.28万円、標準車(ターボの設定なし)は164.89万円〜188.1万円で、おそらくジョイはカスタムより少し安い価格設定になる。ジョイのシェアがどのくらいになるのかが楽しみだ。