「母親から『あんたなんか産まなきゃよかった!』と人格否定された」幼少期に虐待された53歳の漫画家が、両親から受けた“酷すぎる仕打ち”〉から続く

 2023年9月7日にこども家庭庁が発表した「令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数」によれば、全国232か所の児童相談所への相談件数は過去最多の21万9170件(速報値)にのぼっている。

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 そのうち、12万9484件(59.1%)を占め、最多の相談件数となっていたのは、「心理的虐待」である。今もなお増加傾向にある「心理的虐待」とは、いったいどのような虐待なのか――。

 ここでは、フリーライターの姫野桂氏が心理的虐待について徹底的に取材し、その実態を綴った『心理的虐待 〜子どもの心を殺す親たち〜』(扶桑社)より一部を抜粋。心理的虐待サバイバー・渡辺河童さん(ペンネーム・53歳・漫画家)の経験を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)

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うつ病を患い自殺未遂

「過労と、さまざまなことで積み重なったストレスでうつ病になってしまったんです。それで、もう死んでしまおうと決めて、最後にお別れの挨拶代わりに1人ひとり友人を家に招いておしゃべりをしました。最後の友人と一通りおしゃべりをして見送った後、精神安定剤や抗うつ薬、睡眠薬を大量に飲んでオーバードーズで自殺をはかりました」


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 しかし、友人が携帯電話を渡辺さんの家に忘れたことに気づき、取りに帰ってきたことで死を免れることになった。友人が通報し、渡辺さんは緊急搬送され、一命を取り留めた。そしてそのまま精神科に入院することになった。

「入院の際、母親が来てくれたのですが、僕と母親が個別に医師に呼ばれました。それで、医師が僕に話してくれたのは『君のお母さんは自己愛性パーソナリティ障害という病気だよ』ということでした。『病気のせいで君に暴言を吐いてきたことを覚えていないんだよ』とのことでした」

 自己愛性パーソナリティ障害とは、自分は優れていて偉大な存在だと思い込む障害だ。多くの場合、本人に自覚はなく周りの人が振り回される傾向にある。

「退院後、自宅に戻って仕事復帰をしたのですが、うつ病のせいで部屋が片付けられずゴミ屋敷状態になっていました。医師からは再度入院を勧められたのですが仕事をしないといけません。それで途方に暮れていると、訪問看護や訪問介護を受けることを提案されました。訪問看護で看護師さんが来てくれる他、介護士さんが部屋の片付けをしてくれました。介護士さんのおかげでまともな生活を取り戻せたので、僕も誰か人の役に立ちたいと思い、今から看護師資格を取るのは大変だけど、介護士の資格なら取れるかもしれないと思い、勉強を始めました。でも、うつ病が寛解していないので医師からはくれぐれも無理のないように、キツくなったらやめるようにと釘をさされました」

 介護士の資格を取るために、まずは高齢者施設で高齢者の話し相手をする職場体験からスタートした。その後、介護士になるための学校に通い始めた。

「学校のスケジュールはハードでしたが資格を取るために頑張りました。でも、途中でうつ病がひどくなり、もう自分は介護士に向いていないのかもしれないと思って二度目のオーバードーズをしてしまいました。気づくと病院で点滴に繋がれており、二度目の自殺も未遂で終わりました。それでも生きていくのであれば、介護士になる夢をあきらめたくなかったので主治医に相談の上、資格を取るために勉強を再開して、ようやく介護士の資格を取ることができました」

 その後、派遣会社を通じて介護士として働く施設を紹介され、そこで働くようになった。その頃にはうつの調子もだいぶ良くなっており、充実した介護士生活を送れるようになっていた。

「人の役に立てる介護士という仕事は、僕にとってとてもありがたい仕事でした。でも、現在はうつ病の調子が悪くなってしまったのと、仕事中に足を怪我してしまったため、介護士としての仕事はできなくなってしまいました。仕事はたまに漫画の仕事とティーンズラブの音声ドラマを作ったり、デザインや企業から出るフィギュアの受注生産をして生計を立てています。でも、フリーランスは仕事の波があるためいつなくなってしまうのか怖いです。このまま生活保護を受けることになってしまわないかと考え込んでしまうこともあります」

大人になってからも低い自己肯定感

 渡辺さんは、この話からもわかるように、幼い頃から虐待を受けていたため、いまだに自己肯定感が低く、何に対しても自分が悪いのかもしれないと思ってしまいがちだという。

 友人に連絡したのに既読にならず、その友人がSNSを更新しているのを見た際は、自分が何か悪いことをしたのかと思い「ごめんなさい。僕、何かしましたか?」と落ち込んで連絡をしたら、単にその友人が連絡に気づいていなかっただけということもあった。

 幼い頃、両親から受けた心無い言葉によってつけられた傷のせいもあって、いまだにうつ病に苦しまされている渡辺さん。現在進行系で親から心理的虐待を受けている人に、どんなメッセージがあるかと聞くと、次のような答えが返ってきた。

「もっとワガママになっていい。もし親があなたに暴言をぶつけてくるようなら、

 早く親から逃げたほうがいい」

 17歳で親から逃げた渡辺さん。父親はすでにがんで亡くなった。亡くなる直前に仲直りはしたものの、訃報を聞いたときは「ざまあみろ」と思ったという。母親とは連絡を取り合っているが、いまだに親を許せず、うつ病にも苦しまされている。

(姫野 桂/Webオリジナル(外部転載))