ウクライナでアメリカ製のF-16戦闘機の運用が始まりました。これに伴いウクライナ政府は、長距離空対地巡航ミサイル「JASSM」の供与をアメリカに要求しています。ただ、その障壁となるものが米国内にあるそうです。

虎の子F-16を本格運用するために

 ロシアによるウクライナへの大規模な侵攻作戦が始まってから2年半が経過し、ついにウクライナ空軍は待望の西側戦闘機を装備しました。2024年9月現在では、まだ数機のF-16「ファイティングファルコン」しかないと推測されますが、最終的にはフランス製の「ミラージュ2000」など含め、約100機の西側戦闘機が供与される計画です。なお、F-16の運用基地は明らかにされておらず、地上撃破を避けるために各基地間を移動していると考えられます。

 すでに8月には、ロシアが実施した過去最大級のドローン・ミサイル攻撃において、それらを迎撃すべくF-16が初めて実戦で用いられています。しかし、その際に原因不明の理由で1機を喪失しているとのこと(同士討ちの可能性もあり)。ただ、先に述べたように数が少ないこともあって、ウクライナ空軍はF-16を慎重に運用しており、現時点では積極的な航空作戦には投入されていない模様です。


巡航ミサイル「JASSM」(赤い矢印)を投射するアメリカ空軍のF-16戦闘機(画像:アメリカ空軍)。

 一方、アメリカがF-16用の兵装として新たにAGM-158「JASSM(統合空対地スタンドオフミサイル)」を供与する可能性も報じられています。このミサイルは有翼・ジェットエンジン型の空中発射型巡航ミサイルで、推定射程は約400km、弾頭には1000ポンド(454kg)の爆弾を搭載しています。

「JASSM」と同種のミサイルは、すでに英仏から供与されており、ウクライナ空軍ではSu-24「フェンサー」に「SCALP-EG・ストームシャドウ」巡航ミサイルを組み合わせて運用しています。この巡航ミサイルを使ってウクライナ空軍は、クリミアのロシア海軍黒海艦隊司令部を撃破し、キロ級潜水艦「ロストフ・ナ・ドヌー」を大破させるなどの戦果を挙げています。

ロシアの防空システムをかいくぐるため

 ただ、ロシア空軍が保有する大型防空システムS-300やS-400は、カタログスペック上では巡航ミサイルを迎撃する能力を持っています。巡航ミサイルは既知の手段で対応可能であり、防空網を回避した特例的な華々しい戦果が報じられているだけで、大多数の「SCALP-EG・ストームシャドウ」は地対空ミサイルに撃墜されている可能性が高いといえるでしょう。

 一方、「JASSM」には防空網を突破する確率を上げるため、レーダー反射断面積の低減、すなわち「ステルス性の高さ」が盛り込まれています。「JASSM」の使用によって、ロシアの防空対処は一層厳しくなる可能性があります。


ポーランド空軍のF-16戦闘機の前に並べられた「JASSM」ミサイル(画像:アメリカ空軍)。

 しかし「JASSM」が有効に活用されるためには、アメリカがウクライナへの武器供与条件として課している「ロシア本土の標的への攻撃禁止」を解除してもらう必要があります。

「JASSM」の長射程とステルス性の高さは、前線から遠い場所にある飛行場や物資集積地点などを攻撃することで真価を発揮します。逆に、それらを攻撃しないのであれば「JASSM」を供与する意義はあまりないでしょう。ひょっとすると、「JASSM」の供与はロシア本土の標的への攻撃解禁を意味するのかもしれません。

 なお、搭載機についてはF-16のみならず、Su-24、Su-27「フランカー」、MiG-29「フルクラム」なども考えられますが、旧東側機へ搭載した場合は終端誘導方式である赤外線画像データリンクを活用できないため、それら機種で運用する際はGPS誘導のみに限られるでしょう。

 ちなみに、日本も長射程型「JASSM-ER」の購入を決めており、2023年8月にはアメリカ国務省が1億400万ドル(約152億円)で日本へ売却することを承認しています。