史上最多の9人が立候補したことで盛り上がっている自民党総裁選挙。投開票日である27日の日本株市場はどうなっているだろうか(写真:ブルームバーグ)

9月27日の自民党総裁選挙投開票日に向けて、候補者9人による公開討論会が活発に行われている。選挙公約では「実現できる、できない」に構わず、言いたいことを言う、スローガンだけの候補者に人気が集まる傾向があるのは残念なことだ。

だが、マーケット関係者の1人として、景気のいい話を聞いている分には、悪いことではない。

「盛り上がる党首選」には市場も応えるべき

例えば「毎年+5%を15年続けて国民の所得倍増を目指す」など、具体的な数字を出すのは不利だろう。なぜなら、「名目賃金」を示す現金給与総額は、直近の7月が前年同月比+3.6%だが、6月の+4.5%から早くも減速しているからだ。

実質賃金にしても前年同月比+0.4%と、6月の同+1.1%を大きく下回っている。「所得倍増」は名目値のことだと思うが、それでも+5%はかなり厳しく、それを15年も続けるとなると、ほとんど不可能だ。また「1年で政治改革」も、国会での法案手続きの時間を考えたら、最初から無理に思える。

それでも、日本がまだ若かった1960年の池田隼人内閣の、年7.2%で10年後に達成するという「所得倍増政策」を思い出して、楽しくもなる。是非やってもらいたいといったところだ。

その点、「死に物狂いで経済成長」のほうが、その政策自体を批判できないだけに作戦成功といえる。

とにかく9人とも日本のために前向きな政策を出してくれているわけで、それについては素直に期待したい。また、野党第一党の立憲民主党の代表選挙(23日投開票)でも4人の候補者が出て、存在を高めている。この憲政史上、めったにない盛り上がりに、日本の株式市場も応えるべきだと思っている。

いよいよ「戻る時期」がやってきた

さて、この時期の欧米の相場格言に“Sell in May, and go away, don't come back until St Leger day”(5月に株を売ってどこかに行ってなさい。セントレジャー・デーまで戻ってこないように)がある。

前段は「セル・イン・メイ」で知られる格言だが、この時期は後段のほうが重要だ。セントレジャー・デーとはイギリスのドンカスター競馬場で開催される今年で248年目となる、歴史の古い重賞レース「セントレジャーステークス」のことで、毎年9月に開催される。つまり5月に売った投資家は、9月の同レースまでに市場に戻りなさいということだ。

今年の同レースは9月14日(土)に開催され、1番人気を分け合ったヤンブリューゲルがイリノイをクビ差で下し、ほぼ本命サイドで決着した。そして格言では、5月に売った投資家はこの9月16日の本日(月曜日)から買い体制に入ることになる。

セル・イン・メイの5月からの日経平均株価の解説は前回の「1年で最悪の9月」に日本株を買ってもいいのか」(9月2日配信)でも書いたが、その後の展開を加えると、8月5日(3万1458円)の一番底のあと、9月11日(3万5619円)で二番底を形成したように見える。

しかし、この見方には反対意見も多い。その第一は、二番底に対する疑問だ。

一番底からの戻り高値である9月2日の3万8700円まで、立ち合い日数19日で7242円の上昇だった。これは値幅や日柄(日数)で見ると十分な上げで一番底を確定させた。

だが、その後の7連続安で作られた二番底(暫定)まで3080円安と、下げ幅はともかく、二番底からの戻りが12日の1213円高だけだからだ。13日は俗にメジャーSQ(特別精算指数)と呼ばれる、先物とオプションの両方の精算がある3・6・9・12月の「第2金曜日の算出日」で、それに伴うSQ絡みの事情でつけた「1日だけの1213円高ではないか」という見方だ。

確かに、13日の日経平均のSQ値は3万6906円で、当日の日経平均はこの値を超えられず「幻のSQ」となった(ネガティブ指標)。

また、7月の8連続安のあとは8月5日の史上最大の下げに見舞われたように、大きな連続安のあとに本震や余震といった大きな揺れがくるケースが多い。9月の7連続安のあとの大きな揺れはまだ出ていない。

また、13日の日経平均の移動平均線との乖離率を見ると、25日が−1.99%、75日が−4.71%、200日が−2.59%である。この状況は短期・中期・長期の五月雨的な売りが出やすい位置で、ドル円相場のレベル(例えば1ドル=140円よりも円高)や、売り方の仕掛け次第で、売り崩される可能性もある。

「セントレジャーステークスは終わったが、そのレースをまねた日本の菊花賞(G1)は10月20日の開催で、それまで相場はダメだな」などと言う、競馬好きな兜町関係者もいる。

日経平均の予想1株利益は過去最高水準

しかし、前回の本欄の締めの言葉に使った「9月に買えば年末・年始高で売れる」のほうが、「デフレ脱却の日本市場では現実的な相場格言に思える」という見方はいささかも変わっていない。

実際、現在の企業業績は2024年度も2025年度も増収増益が予想されている。1ドル=140円台前半の円高になってから不透明感が出ているが、昨2023年度の平均レートは140円だったことを考えると、もし130円台に入った場合でも日経平均の短期的な下げはあっても、回復している国内消費がカバーして、減益まで落ち込むとは考えられない。事実、13日の日経平均予想EPS(1株当たり利益)は2458円45銭と、過去最高を記録している。

また、今後も物色対象は内需系がいいと思っているが、半導体・ハイテク株が相場の足を引っ張るとまでは思っていない。なぜなら、アメリカの半導体の指標であるSOX指数こそ、8月7日が一番底(4426ポイント)、9月6日が二番底(4528ポイント)を固めてきたからだ。

日本でも、代表的ハイテク株である信越化学工業や京セラ、東京エレクトロン、浜松ホトニクス等の予想PER(株価収益率)が、最近の株価の下げでほぼ20倍台前半と、ハイテク株としてはかなりリーズナブルな水準になっている。

今週の市場は18日(水)のアメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)、20日(金)の日銀金融政策決定会合の両方の結果を注目しているが、前者は予想どおり0.25%の利下げ、後者は現状維持で、波乱なしと考える。年度を通していちばん苦しい9月相場も今週・来週(16〜27日まで)で実質的に通過する。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)