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厚生労働省が公表した「高年齢者雇用状況等報告」によると、令和5年6月時点の70歳以上の常用労働者数は約93万人だったそう。そのようななか「人が喜ぶことが自分の幸せ。これからも生きている限り、大好きな仕事を続けていきたい」と語るのは、101歳で現役の化粧品販売員として働いている堀野智子さんです。今回は、堀野さんの著書『101歳、現役の化粧品販売員 トモコさんの一生楽しく働く教え』から一部引用、再編集してお届けします。

【書影】おばあちゃんセールスレディの「言葉のサプリメント」が、疲れた心を元気にしてくれる!堀野智子『101歳、現役の化粧品販売員 トモコさんの一生楽しく働く教え』

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話し上手は聞き上手 相手の話はとことん聞く

これまで61年間、お客様とは本当に親しくお付き合いをしてきました。

私の現在のお客様は高齢の人ばかり。昔はよくお客様の自宅に商品をお届けしたものですが、最近は営業所から送ってもらうことが多くなってきました。特に新型コロナが蔓延したときは、さすがに顔を合わせてお話しする機会が、ガクッと減りました。

その代わりというわけではありませんが、お電話はよくかかってきます。

私と同じように旦那様が亡くなって1人暮らしの人や、お子さんたちと暮らしていても話題が合わないなどで、話し相手を求めている人が多いんです。

長いお付き合いで、お互いのこれまでをよく知っており、化粧品を介しての関係でもある私には電話しやすいらしく、いろんなお客様からよく電話がかかってきます。

相手が気のすむまで電話でおしゃべり

私は今、以前に比べて家の中で過ごすことが多くなっていますが、じっとしているのが性に合わないので、家の中でも何かしら用事をしています。1人暮らしということもあり、時間的な余裕はたっぷりありますからね。

だからお客様から電話があると、ほとんどの場合、何時間でもお相手の気がすむまでお話をするんです。お客様は私の事情を知らないので、うちに来客があるときでも電話してきますが、私が根気よく相手をするので、驚かれることが多いです。

総じて人は、自分が話したい生き物だと聞きました。他人の話を聞くよりは、自分の話を聞いて欲しいという気持ちのほうが強いともいわれます。

私自身は話すのも聞くのも「お互い様かな」という気持ちです。人は自分のことになると無自覚なもの。ときには自分も話を聞いてもらいたい気持ちがまさり、相手の話が耳に入って来ないこともあると思うのです。

だから、たとえ相手の話が長くなっても、「自分もそういうときがあるからね」と思い、聞くようにしています。

心がけているのは否定したり批判したりしないこと。「正しい」とか「間違っている」とか、一概には言えませんよね。その人の置かれている状況などで、変わってくると思うのです。

それに他人は自分とは違う経験をしているので、話を聞くのが単純に面白いというのもあります。とはいえ、あまりに長話になると、逆にうちに来てくださっているお客様に失礼にあたるので、いつもよりは短く切り上げるようにはしていますが……。

人間関係は近すぎず遠すぎずがいちばんいい

電話といえば、昔、私に何くれとなくツンケンしてきた同僚が、ある時期からよく電話をしてくるようになりました。

こう言っては失礼ですが、キツい性格の人だったので、あまりお付き合いしてくれる人がいなかったようなのです。


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電話で話した感じから、どうも認知症になっているらしく、そのため私を毛嫌いしていたことを忘れていたのかもしれません。

いつものごとく、相手が満足するまで、うんうんと話を聞くようにしていました。

あるとき、その人が入院していると聞いたので、お見舞いに行ったところ、娘さんから「母がいつもお電話していたようですみませんでした」と言われました。

するとその人が「私、電話したことなんか一度もないから!」と言うのです。このときばかりは、「あんなに電話してきて同じ話をしていたのに……」とガクッときました。

そんなふうに来るもの拒まずで受け入れるので、よく他の人から「そんなに誰にでも愛想をよくしているのに、付け込まれないのが不思議だね」とも言われます。

ある人から「堀野さんは誰でも受け入れるけれども、きちんと線引きをしているんだよね。だからとても親切だけど、相手が『この人なら付け込んでもいいかな』と思ってしまうようにはならない。天性の付き合い上手だね」と言われ、「なるほど、そうなんだ」と思いました。

近すぎるとお互い傷ついてしまう

自分自身が人にもたれかかろうと思わないので、相手にももたれかかられることがないのかもしれません。

長く仕事を続けてこられた理由の1つには、「人との距離が、近すぎず遠すぎずだったから」があるのかなとも思います。

人と人との距離は、よく「ハリネズミ」にたとえられますよね。近すぎるとお互いを傷つけあう、という意味です。

その通りだなぁと思います。親しいからといって、あまりに相手のプライバシーに踏み込みすぎるのは、結局のところお互いにとってよくありません。

かといって、せっかく人と人が関わり合うのだから、水くさいままなのもつまらないものです。

過剰に相手のことを知ろうとせず、今、自分が相手に差し出せるものを惜しみなく差し出す……そんなふうにしていたら、おのずと人間関係はうまくいくのではないでしょうか。

※本稿は、『101歳、現役の化粧品販売員 トモコさんの一生楽しく働く教え』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。