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2023年に開催された第105回全国高等学校野球選手権大会で、慶應義塾高等学校が107年ぶりに優勝しました。この優勝に大きく貢献したのが、メンタルコーチ・吉岡眞司さんのメンタルトレーニングです。吉岡さんは、「成果を挙げているチームは、明るく雰囲気がいい特徴が見られる」と語っていて――。今回は、吉岡さんの著書『強いチームはなぜ「明るい」のか』から、あらゆる分野に活用できるメンタル術を一部ご紹介します。

【書影】慶應義塾高校を107年ぶりの甲子園優勝に導いた、負け知らずのメンタル術。吉岡眞司『強いチームはなぜ「明るい」のか』

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「社会的な成功」と「人間的な成功」の違い

「成功」という言葉を聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?

「今のチームでレギュラーポジションをとる」

「第一志望の**大学に合格する」

「出世して社長になる」

「億単位のお金を稼いでのんびりした老後を過ごす」

人それぞれ「成功」のイメージは異なると思います。

ただ、ここに挙げた「成功」の例はいずれも地位や肩書き、お金に関するもので、これらは「社会的な成功」です。

B君の相談

しかし、もう一つの大事なことがあります。それは「人間的な成功」です。

「人間的な成功」とは何でしょう? 「社会的な成功」と何が違うのか? 慶應義塾大学のB君のケースをもとにお話しします。

「レギュラーになって神宮球場の舞台に立つ」との目標を掲げ、日々の練習に打ち込むB君。

しかし、200人もの部員がひしめくチームでは、ベンチ入りすることすら簡単ではありません。B君もなかなか結果が出せず、苦しい思いをしていました。

4年生が引退し、B君を含む3年生を中心とした新チームが発足したとき、最上級生となったB君は岐路に立たされます。

「このままレギュラーを目指し続けていくのか。それとも、レギュラーはあきらめてグラウンド以外に役割を見出すべきなのか……」

私がB君から相談を受けたのは、そんな時期でした。

究極のゴール

「今の実力ではレギュラーに入るのは難しい。でもこれ以上どう頑張ったらいいのか。日々悶々としているんです」

「なるほど。そもそもB君はこのチームの中で、どんな部員でありたいの?」


(写真提供:Photo AC)

「そうですね……。僕がプレーをすることで、一生懸命練習すれば人は必ずうまくなるということを伝えたい。後輩や小中学生などに勇気や感動を与えられる、そんな人間でありたいです」

ここでB君が目指す「レギュラーになって活躍する」ことは「社会的な成功」です。

そして、対話を通じて出てきた「後輩や小中学生に勇気や感動を与えられる人間でありたい」が「人間的な成功」です。

前者が「なりたい自分」、後者は「ありたい自分」とも言えます。

「では、『レギュラーになって活躍したい』と、『後輩や小中学生に勇気や感動を与えられる人間でありたい』。この2つの目標にあえて順番をつけるとしたら、究極のゴールはどっち?」

しばらく考え込んだ末に、B君は「後者ですね」と答えました。

「社会的な成功」は「人間的な成功」を目指すルートの一つにすぎない

このように、一言で「成功」といっても、そこには「社会的な成功(なりたい自分)」と「人間的な成功(ありたい自分)」の2つがあります。

そして、より大切なのは後者の「人間的な成功」を明確にイメージすることです。

なぜ「人間的な成功」が大切なのでしょう?

シビアな言い方をすると、「社会的な成功」は、必ずしも全員に約束されているわけではありません。

レギュラーの座は同じポジションを争うライバルとの競争によって勝ち取るもの。

自分がいくら努力しても、途中で怪我をしてしまうこともあれば、ライバルの方が努力も実力も上回ることもあります。それは自分ではコントロールできないもの。

一方で、もし「レギュラーになりたい」という「社会的な成功」がかなえられなかったとしても、「後輩や小中学生に勇気や感動を与えられる人間でありたい」という「人間的な成功」は、別のルートからでも目指すことができます。

つまり、「社会的な成功」は、「人間的な成功」という最終的なゴールを目指す、そのルート上にある通過点の一つにすぎません。

山の頂上に至るにはさまざまな行き方があるように、たとえレギュラーになれなかったとしても、別の「社会的な成功」を見つけて、最終的に「人間的な成功」をゲットすればよいわけです。

※本稿は、『強いチームはなぜ「明るい」のか』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。