たかが一丁でも、研ぎあがると気分のよいものである…(写真:stock.adobe.com)

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時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは宮城県の60代の方からのお便り。隣の家の子どもが、包丁を持って訪ねてくる理由は――。

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ビール1本で承ります

隣家の小学生S君が、菜切り包丁を一丁持って訪ねてきた。といっても、押し込み強盗にやってきたのではない。切れ味が落ちたので、「これ研いで」というわけだ。母親に頼まれたのだろう。

研ぐのを見たがるS君のために、さっそく荒砥石を用意し、片面ずつ順に当て、仕上げ砥石で丁寧に整えていく。古雑誌で切れ味を試すと、われながら見事な仕上がりぶりだ。S君もうっとり見とれている。後ほど謝礼のビールが1本、届けられるはずだ。

私が包丁研ぎを苦にしないのは、家具職人だった父の影響だと思う。結婚後、夫は台所用品に触れることはなく、研ぐのはもっぱら私の役目。日々研いでいるうちに腕を上げていった。たかが一丁でも、研ぎあがると気分のよいものである。

そのうち私の腕前(!?)は近所で知られるところとなり、いつしかこうして頼まれるようになった。引き受ける条件は、完全に切れなくなる前に持ってくることだ。そして、頼まれるコツは、謝礼のビールを遠慮しないこと。無償では気を使わせるし、なにより一仕事の後のビールは格別なのだ。

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