(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

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厚生労働省が実施した「令和4年 介護サービス施設・事業所調査」によると、介護に従事する職員数は年々増加しており、令和4年度は215.4万人だったそうです。そのようななか「女優の仕事と介護の仕事は似ている」と話すのは、芸能活動のかたわら、介護福祉士や准看護師として現場で活躍する北原佐和子さん。今回は、北原さんの著書『ケアマネ女優の実践ノート』から、北原さんが介護の現場で経験したエピソードを一部ご紹介します。

【写真】利用者さんと笑顔でハグをする北原さん

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お湯に浸かると「本音がポロリ」興味を抱くきっかけになった、入浴介助

最初に携わったのは、民家を改装した宅老所と呼ばれる介護施設でした。

そこでは6名の高齢者が生活されていて、認知症の方もいらっしゃいました。自宅からデイサービスに通ってくる方々もおられました。

当時は何もかもが初めての経験。不安で胸がいっぱいです。

そんな私ですから、当たり障りのない掃除や洗濯を優先していて……。

入浴介助や夜勤といった大変な仕事からは逃げ回っていました。

ところが、あるときから、入浴介助が楽しみになったのです!

飾り気のない本音

施設の浴室は家庭用のような小さな造りだったので、入浴はひとりずつ。着替えを含めて、時間はだいたい20分ほど。

日中、フロアで仕事をしていると、何人も同時にお世話をするので、どうしても目先の作業に追われてしまいます。ところが入浴介助では、マンツーマン。20分間、ひとりの方にだけ、濃密に関われるチャンスでした。


『ケアマネ女優の実践ノート』(著:北原佐和子/主婦と生活社)

温かいお湯に浸(つ)かると、心の緊張がじんわりほどけてくるのでしょう。

たとえばデイサービスの利用者さんは、家の中でのちょっとした出来事を話してくださるのですね。

お嫁さんとケンカした。孫が肩をたたいてくれた。愛犬がかわいい。

そんな飾り気のない本音をポツリポツリと語ってくれます。

入浴介助の仕事は、相手としっかりと向き合える、かけがえのない時間なのだと気づきました。

そうした経験から、利用者さんに対して徐々に興味を抱くようになり、気負うことなくコミュニケーションできるようになっていきました。

「どんなふうに」夜を過ごす? 夜勤をして、深く知りたいと思った

一歩踏み出してみたら、次々と新しい発見がありました。

宅老所では、ショートステイでお泊まりになる方々もおられます。

日中、とてもリラックスして過ごしていた方が、夕方になると“不穏”な状態になって、だんだん落ち着かなくなってきます。荷物をまとめて、「帰る、帰る」と言い張ります。でも、泊まりですから、帰れません。

慣れない環境でのお泊まりなので、初日は特に自宅が恋しくなるのでしょう。その気持ち、よくわかります。自分の家ではないですから。

ちょっとお邪魔しているだけだと考えれば、「私、そろそろ失礼します」となるのは、ある意味、当然の話かもしれませんね。

「ごめんなさいね、今日からお泊まりなのですよ」

きちんとお伝えしても、なかなか理解できない方は多いのです。

夜勤をやるようになった理由

今、「帰りたい」と言っておられる方は、夜はどうなるのだろう?

私はすごく気になりました。

諦めるのか、納得するのか。どういうタイミングでパジャマに着替え、どうやってひと晩をやり過ごし、次の日の朝を迎えるのか。

頑(かたく)なな気持ちがどのように変化していくのか、夜間の様子を自分の目で確かめたくなったのです。

そんなふうにもっと深く関わりたくなったのは、私にとっては、ごく自然な流れでした。お仕事だから、という使命感や向上心というより、相手に対して強い興味を有したからだと思います。

それから夜勤をどんどんやるようになりました。

※本稿は、『ケアマネ女優の実践ノート』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。