『Winny』の松本優作が脚本・監督を担い、ヒットメーカーの藤井道⼈がプロデュースする連続ドラマ『透明なわたしたち』。2024年の渋谷で、とある凶悪事件が起こる。事件の犯⼈が⾼校の同級⽣であると直感した週刊誌ライターの碧(福原遥)は、疎遠になっていた高校時代の仲間たちと再会するのだが…。都会の闇を彷徨う謎の存在・喜多野雄太を演じるのが、ここ最近骨太な役どころが似合うようになってきた俳優の伊藤健太郎。マッチョ化も話題の伊藤が、違和感の蓄積を経て“好青年キャラ”脱却に至った心境を語る。

【映像】伊藤健太郎がミステリアスな“同級生”を演じる『透明なわたしたち』特報

「普段の僕はそこまでキラキラ好青年じゃないのに」パブリックイメージへの抵抗

──伊藤さんのワイルドさに驚かされました。どのようにキャラクターを作っていきましたか?

脚本を読んで思ったのは、喜多野雄太を演じる上では変化が必要になるという事でした。喜多野雄太の高校時代と現代とでは内面も外見もテンションも違う。特に現代パートでは謎めいた存在という印象が強かったので、過去と現在をどう差別化すればいいのかを考えました。当初は髪の毛を染めるプランはありませんでしたが、メイクさんと相談の上、監督に自らプレゼンして前髪を金髪にしました。

──伊藤さんは俳優復帰作『冬薔薇』(2022年)以降、今回の役柄も含めて重厚な役を好んで選んでいるように感じます。それまでは好青年系キャラが多かったわけですが、どのような心境の変化があるのですか?

今までは王子様系や好青年系イメージの役柄が非常に多くて、もちろん俳優としてやりがいもあったし、役を演じるという意味では楽しかったです。しかし年齢的な問題もあったのか、いただく役が同じものばかりに集中してくるようになると自分の中で違和感が生まれる様になりました。

──固定されたイメージから脱却する難しさは想像がつきます。

演じた役のイメージを持たれることはありがたい一方で、自分もそのように見られてしまいがちというか…。普段の僕はそこまでキラキラ好青年じゃないのに、そう思われてしまう事への窮屈さ。それが違和感として蓄積していきました。作品の評価としても演技面ではなく「あの役カッコ良かった」「キュンキュンした」という言葉が多くて、それはそれで嬉しいことではあるけれど、役者として認められていないような気がして。その葛藤と常に戦っていました。

──その好青年時代に出演した異色作『惡の華』(2019)ではブルマーを履いて悶絶するシーンがありました。挑戦的役を引き受けた背景には、パブリックイメージへの抵抗があったわけですか?

まさにそうです。あの作品への出演は当時の自分としての精一杯の抵抗でした。でも、あれでは足りない。もっともっと裏切るぞ!と(笑)。もっと最低に、超凶悪な殺人鬼とかを演じたいという渇望があります。もちろん求められてナンボの世界であることは理解していますが、せっかく役者をやっているわけですから、色々な挑戦をして自分を試してみたいという気持ちが一番にあります。『透明なわたしたち』の喜多野雄太のような謎めいた男や『静かなるドン』だったり、お話を頂ける限りはこれまでの自分のイメージに囚われないチャレンジをしていきたいです。

──そのチャレンジの成果が表れ始めていますね。

徐々にではありますが、アウトロー系キャラも増えてきたりして、同時に『あの花が咲く丘で君とまた会えたら』(2023)のような好青年もやらせていただけたりして、ふり幅を大きくフットワークも軽く動けるようになったという点では今は心が楽です。ヴィジュアルではなく、お芝居の部分で評価していただける声が増えてきているのも嬉しいです。もちろん「まだ駄目だよ、お前は」と言われることもありますが、「あの時のあのシーンの目つき、表情、振る舞いが良かった」という声をもらえたりすると、演じることへの遣り甲斐に繋がる喜びが生まれます。

──多忙だった20代前半に比べると、今の方が楽しく演じているように見えます。

これは誤解なく受け取ってもらいたいのですが、正直な話をすると20代前半は仕事に対してあまり楽しいという感情は持っていませんでした。毎日凄い量のお仕事があって、自分が今何をやっているのか、どこにいるのかわからなくなる瞬間があって…。お芝居は好きです。でも俺は一体今何をしているのだ?と迷子になる事も多かったです。とても贅沢な悩みかもしれませんが、お芝居に対する好きだという気持ちがどんどん離れていくような気がして。そんな感情を抱く自分に怒りが湧いたし、悔しかったし、悲しかったし、そんな感情を認めたくなかった。だから今振り返ると「楽しい!」という気持ちだけではやっていなかったと思います。

「トレーニング中は脳みそが強制的にシャットダウンされて雑念がゼロになる」バッキバキの肉体の秘密

──ところで伊藤さんのプライベートでの肉体バッキバキワイルド化もネットニュース等で話題ですが…。

体を鍛え始めたのは『弱虫ペダル』(2020年)からですが、ライフワーク的にやり始めたのはここ最近です。役者は体が資本ですから、体力維持や健康管理という部分も大きいですが、筋トレと向き合っている時間は良いことも悪いこともすべて忘れてただただ集中。トレーニング中は脳みそが強制的にシャットダウンされて雑念がゼロになる。それが今の自分にとってはいいリフレッシュタイムになっています。毎日1時間程度ですが、自分の生活になくてはならない大好きな時間です。

──肉体改造の効果を実感することは?

実は昨日、友達とバスケをした際に実感しました。ダンクシュートした時に、ゴールリンクに手が届いたんです!自分でも『え?すごっ!』と思いました。バスケで脚力の発達を感じて…。あ、役者業でのエピソードではなくてすみません(笑)。

取材・文:石井隼人
写真:You Ishii