今年『40歳になるとなぜ健康の話ばかりしてしまうのか?』を上梓したしゅんしゅんクリニックPさん(撮影◎本社 奥西義和)

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7月6日の『さんまのお笑い向上委員会』にしゅんしゅんクリニックPが芸人・おばあちゃんとのコンビ「医者とおばあちゃん」で登場した。*********医者にして芸人という特殊な経歴の持ち主であるしゅんしゅんクリニックPさん。『さんまのお笑い向上委員会』のモニター横に華麗な経歴で登場、個性的な歌とダンスで爪痕を残し一躍人気になった。ご自身が大台に乗るという今年『40歳になるとなぜ健康の話ばかりしてしまうのか?』を上梓した。どうして医師免許という手堅い資格を持ちながら、芸人の道にも入ったのか。人とは違った選択をすることになったルーツ、二足の草鞋生活の勘どころについて聞きました。(構成◎岡宗真由子 撮影◎本社 奥西義和)

【写真】千歳飴を持って、母と並ぶしゅんPさん

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家族は「いや、無理でしょ」と

芸人になる件について、意外にも両親には反対されなかったですね。反対されなかったというより、反対させない道筋を歩みました。NSC(吉本芸人の養成所)に願書を出して、もう入学が決まってからの事後報告です。…もちろん、とても驚いていました。なにしろ家族の前の僕は、ひょうきん者ではなく至って真面目なんです。なんだったら家族を笑わせたことは一度もない(笑)。見ているテレビから僕がお笑い好きなのは分かっていても、やりたい側の人間だというのは全く気づいていなかったと思います。

父は、一度工学部を出て建築関係の仕事をしてから、もう一度共通一次試験を受け直して医大に入り精神科医をしています。母は僕ら兄妹を育て終えてから看護学校に入り、看護師になりました。妹は故郷で公務員をしています。堅実な家族の元に生まれた僕が、誰に似たかというと不明なんです。けれど人生のレールが決まったと思う地点から、もう一度違う世界に飛び込む勇気というか、そこに抵抗がなかったのは、両親の影響があったのかもしれません。

父はギターを弾いて歌って、勤めている病院でクリスマスにライブをしたりするので、本当は表に立ちたい人間だったのかもしれません。僕もそんな機会には一緒にベースを弾いて父を盛り上げています。今でも家族の前で歌って踊って舞台に立つのは恥ずかしいのですけれど、母はチケットを自分で手配して応援にきてくれています。

“若手芸人”の存在を知る

小学生の時はダウンタウンさんの『ごっつええ感じ』が好きで夢中になって見ていました。でもいざ芸人になりたいと本気で思ったのは大学生の時。当時、付き合っていた彼女がお笑い好きだったのもありますし、『爆笑オンエアバトル』ですとか『M-1グランプリ』を通して、“若手芸人”の存在を知ったことも大きなきっかけになりました。


妹が生まれて(写真提供◎しゅんしゅんクリニックPさん)

一攫千金を狙ってマイクの前に立って、まだ顔も知られてないのに、全国の人のことを笑わせる。そこから一夜にしてスターになって行く人たちもいて、その姿がものすごくカッコいいなぁって憧れました。

マイク一本だけで人を笑わせて、去っていくなんて、漫才師って本当に生き様がカッコいいと思います。


マイク一本だけで人を笑わせて去っていく、漫才師って生き様がカッコいい(撮影◎本社 奥西義和)

医学部学生だけでつるんでいるのは楽しくない

僕の医療あるあるネタには大抵ダンスが含まれているのですが、ダンスも大学時代に始めました。僕の進学した国立大学には、医学部以外の教育学部もあって、その人たちは違う学部同士みんなキャンパス内で入り混じっています。

ところが医学部だけはわりと孤立しているんです。それを僕はつまらなく感じて、サークルだけでも他学部と一緒のサークルに入りたかった。当時はダンスも流行っていたので、医学部の同級生と連れ立ってダンスサークルに入りました。

けれども医学部ではスポーツ系の部活に入っていないと人にあらずと見做される空気があり、ダンスとは別に医学部の体育会系部活に所属せざるをえなかった。それが「軟式テニス」です。

医学部にしてはチャラい人が多いかなと思って選んだのにも関わらず、これが内実はただのガチの体育会ノリで、相手のことは口汚く野次るし、驚くほど厳しい雰囲気でした。この頃から体育会の昭和ノリは合わないなって思っていた僕です(笑)。そんな影響があってかなくてか3年生の時にはいつかはNSCに入りたいという決意を固めていました。


街で声をかけていただけると嬉しいのに嬉しそうな顔ができません。そのくせ承認欲求は高い方で…(撮影◎本社 奥西義和)

「モテたい」よりも優先すること

医師免許を取得し、研修医も終えてからNSCに入り、28歳の時、晴れて芸人になりました。

そしていつの間にやら僕も40歳で、中堅になってきたんですよね。今はピン芸人なのですけれど、時々「おばあちゃん」という吉本芸人の相方と漫才をしています。僕が医師で、患者を演じて下さる77歳の女性で、正真正銘のおばあちゃん。本にも書きましたけれど、セリフや段取りを忘れちゃう時があるので、臨機応変にやっています。声も普段より張って、おばあちゃんに聞こえないことがないように気をつけたり、何度も確認したり、いろんな患者さんから学ばせていただいたことがここにいきているかもしれません。

芸歴は14年になりますが、割と人見知りの方なので、街で声をかけていただけると嬉しいのに嬉しそうな顔ができません。そのくせ承認欲求は高い方で、「いいね」も普通に欲しいタイプ(笑)。モテたいって思ってきました。

今回の本のタイトルはと言えば、自分も含めて周りが少しずつ変わってきて、「モテたい」とか「あそこに美味い店がある」という話題の比重に比べて、健康の話が多くなってきたなぁという率直な思いからつけました。50代の友人に聞いたら、もっとだって聞きましたし。

本には、健康でいるための話はもちろん、女性の生理についても書いています。男性が生理をタブー化する時代はもう終わったというか、娘にも話ができたらいいと思います。僕の母は、昔からいろんなシチュエーションで男女を分けることに反対で、僕の通っていた学校に対して成績順位を男女別に発表することを抗議した人です。女性と男性が対等という感覚はそんな母のおかげで自然と身につけられました。女性のための経口避妊薬に反対することは前時代的な老害ですし、そういった昭和的価値観は早く退散すべきかなと思います。


『40歳になるとなぜ健康の話ばかりしてしまうのか?』(著:しゅんしゅんクリニックP/ワニブックス)

年配の方は「近頃はつまらない時代になった」って言う人も多いんですけど、僕としては今の時代の方が生きやすい感覚です。昭和より令和感覚の方が昔から肌に合っていたと思います。例えばですが、12時から1時間休みをとるべき看護師さんに、午前中暇な時間が1時間あったんだから、昼休み返上して働いてよっていう経営者は嫌なんです。待機時間も働いている時間だと思いますし、それとは別にちゃんと休む権利があると思います。手術や仕事の後、だらだら先輩医師に引っ張られてしゃべったりする時間も嫌い。そこは時給をくださいと言いたい。あ、話の内容によるんですけどね。面白かったらいいです(笑)。


M-1に出場したコンビの芸人「おばあちゃん」と(写真提供◎しゅんしゅんクリニックPさん)

患者さんに対してボケることはできないもので…

医師と芸人、僕は本当にどちらも続けてきてよかったと思います。医師の仕事は朝から、人の悩みを聞くわけですし、患者さんに対してボケたりツッコんだりしたくてもできない。

ただ基本的には真面目な性格で、余り時間や移動時間には本を読んで勉強していないと焦ってしまう性質なので、医師であることも性に合っています。多分どちらの仕事もどちらの息抜きになっているので、僕にとってはありがたい二重生活です。

最近は、内科だけでなく美容クリニックにも勤めるようになって、僕自身も美容の施術に対する偏見がなくなりました。ここ2、3年のことです。ボトックスやヒアルロン酸の注射って、注射ってだけで怖いなと思ってきたんですけれど、自分が間近に見て安全な技術と思いましたし、やり過ぎなければ活用した方がいいと完全に路線変更しました。周りの人にもどんどん勧めています。

僕は38歳の時に娘ができたので、娘が成人する時に僕は60近い年齢になってしまう。少しでも若くいたいというのも大きなモチベーションですね。

夫の悪口はいつの時代も楽しい

二足の草鞋も履いているのですが、家族の一員としての自分も大事にしてきました。結婚がうまくいっている先輩の話はいつも参考にしています。例えば愛妻家で有名な鬼越トマホークの金ちゃんさん。自分の家でスマホをいじったり仕事をしたりしないでいいように、駅前の公園のベンチでメールを送信し終えて帰ると聞きました。僕もそれを伝授されてから、家になるべく仕事をもちこまないように注意しています。

その他にも、妻にゴミを捨ててくれと頼まれた時は「そっちの方がゴミ箱に近くない?」などと余計なことを言わないようにしています。心がけているのはアンガーマネジメント。何か反論したくなっても6秒我慢して、本当に言い返すべきなのか熟考して、なるべくやめる。たとえ妻が驚くほど高額な洋服を買おうとも、反抗するのはよくありません(笑)。6秒我慢です。芸人さんは奥さんを大事にしている方が意外と多い。医師の友人は夫婦がうまくいってない人が多いので、反面教師ですね(笑)。

Xで夫の悪口に1万いいねがついてバズっていたりするのを見ると、本当に自分も気をつけないとと気を引き締めます。とはいえ婦人公論さんもそうですが、夫の悪口って、平安時代、いや石器時代から必ず盛り上がる話題ですよね。ただ自分だけはその範疇に入らないよう妻を大切に、これからも芸能界と医学界の二刀流を頑張っていきたいと思います。


YouTubeでも人気のポーズで。「芸能界と医学界の二刀流を頑張っていきたい」(撮影◎本社 奥西義和)