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<ひとり言>というと、「自分の世界に入り込んでいるみたい」「なんだか地味で暗い感じ」など、あまり良い印象を持たない方もいるのではないでしょうか。しかし、脳内科医の加藤俊徳先生は「ひとり言には脳を覚醒させ、眠っていた能力を伸ばす力がある!」と断言しています。そこで今回は、加藤先生の著書『なぜうまくいく人は「ひとり言」が多いのか?』より、脳科学的な視点から<ひとり言のメカニズム>を一部ご紹介します。

【書影】「ひとり言」のメカニズムを脳科学の観点から解き明かし、能力を高める方法を紹介。加藤俊徳『なぜうまくいく人は「ひとり言」が多いのか?』

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集中力がアップするつぶやきとは?

英国の研究で、ひとり言で集中力が増すという実験結果がありました。

このことを、改めて脳の仕組みから解説してみましょう。

実験ではある数を見つけるオンラインゲームを4つのグループに分けて、その成績を比較したということです。

より早く反応するイメージを持ってゲームをするグループ、起きるかもしれない状況を予測してゲームするグループ、ひとり言をつぶやくグループ、とくに何もしないグループです。

結果は、最も優秀だったのがひとり言をつぶやいたグループでした。

しかも「90点を取るぞ」というような具体的な目標を立てるより、「一番になりたい」「できるだけ頑張るぞ」といったひとり言がもっとも有効だったそうです。

オンラインゲームですから、おそらくコントローラを使いながら対戦するのでしょう。

ひとり言をつぶやくことで、まず左脳の「思考系」が刺激され、左脳の前頭葉から「運動系」に指令がいきます。

このとき、ひとり言をつぶやくことで脳がモチベーションを上げ、臨戦態勢に入るということだと考えます。

その他の3つのグループは、いずれも言葉を発声していないことに注意してください。

イメージ化しやすい言葉

おそらくですが、ひとり言はつぶやくことで「運動系」脳番地を働かせています。

ゲームでは視覚で数字を捉え、ある数を見つけ次第、手と指を動かしてコントローラを操作します。

運動系が活性化されていることで、これらの動きも他のグループに比べるとスムーズに行ったと考えられます。

また、「90点を取る」という数値目標より、「一番になる」「頑張る」という言葉が有効だったのも頷けます。

90点という数値それ自体は、概念的なものです。

そのため脳の中でイメージしにくいのです。

その点、「一番になる」「頑張る」というのは、ずっとイメージがしやすい言葉です。

一番になったときに喜んでいる自分の様子、周りの賞賛する光景が連想されます。

頑張っている状況も、必死でコントローラを動かす様子がイメージできるでしょう。

イメージ化しやすい言葉であるがゆえに、脳を働かせやすくなるわけです。

「短期記憶」と「長期記憶」

ひとり言によって、記憶力が増すという実験結果もありました。

ちなみに、記憶には「短期記憶」と「長期記憶」の2つがあります。


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短期記憶というのは、「思考系」と「理解系」が合わさってできた、ワーキングメモリに記憶されたものです。

一方、長期記憶はワーキングメモリから「記憶系」、とくに海馬によって情報が短期記憶から長期記憶へ転送されたものをいいます。

短期記憶が、数字や意味のない言葉の羅列のようなものが多いのに対して、長期記憶は体験に基づいたエピソード記憶などが中心です。

逆に言えば、脳は意味を持たない記号より、意味を持つエピソード記憶を重視しているのです。

実際、私たちが過去を振り返り、現在の人生、あるいは未来に役立つ情報は何かというと、歴史の教科書に書いてあった年号ではなくて、過去に体験したさまざまな体験やエピソードでしょう。

だからこそ、過去の体験を通じたエピソード記憶が、海馬の長期記憶の中枢に収められるわけです。

失った記憶を呼び覚ます便利なひとり言

脳にしてみると、声帯や顔の筋肉を動かして発せられた言葉は、発せられたという事実で、エピソードと同じ意味と重みを持ちます。

それゆえに、何かを覚えるときは体を動かし、声を発声して覚えます。

それによって、エピソード記憶に近いものとして、長期記憶に残すことができるのです。

また、蓄えられた長期記憶を呼び覚ますときにも、ひとり言が大きな力を発揮します。

探し物をするときに、無言で探すより、「ノートはどこに行ったのかなぁ」とひとり言をつぶやきながら探してみてください。

すると、ノートという言葉をキーワードにして、さまざまな連想が浮かび、それが長期記憶を刺激して、ノートのありかがフッと思い出されるわけです。

長期記憶に入っている情報は、ワーキングメモリを使わないと取り出せません。

そのワーキングメモリを動かすのが、ひとり言なのです。

総じて言えば、記憶力をアップさせるには「言葉」──それも「ひとり言」がとても大きな力を持っているということです。

※本稿は、『なぜうまくいく人は「ひとり言」が多いのか?』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。