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プレゼンアドバイザーの竹内明日香さんによると、学校の国語のテストや入試問題において、<子どもたち自身の意見>を問う設問が少ない傾向が続いているそう。このような状況のなか竹内さんは、子どもたちの「話す力」を育てるための講演や授業を全国で行っています。そこで今回は、竹内さんの著書『話す力で未来をつくる 〜プレゼンアドバイザーが伝える 子どもの思考力 判断力 表現力を伸ばすチャレンジ〜』より、家庭でできる子どもの「話す力」を育てるメソッドを一部ご紹介します。

【書影】家庭でできる、子どもの「話す力」を育てるメソッドを紹介。竹内明日香『話す力で未来をつくる 〜プレゼンアドバイザーが伝える 子どもの思考力 判断力 表現力を伸ばすチャレンジ〜』

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AI時代の「話す力」

最近は、家庭や教育現場にAI(人工知能)が浸透してきました。

AIの急速な発展により、社会構造が大きく変化し、効率的に物事が進められるようになる一方で、「AIに仕事を奪われるのでは?」と不安な気持ちや懸念を抱く方もいらっしゃいます。

いずれにしても、今の子どもたちは、望む、望まないにかかわらず、AIと共存していく時代を生きていかなければなりません。

実は、「話す力」を養うプロセスでは、AIには難しいとされる人間だからこそ持つ力も鍛えていきます。

またもちろん、AIにできることが増えていくからこそ、AIをうまく活用することで「話す力」を磨きやすくなるという側面もあります。

子どもたちにとって、AI時代を生き抜く上でも、「話す力」のトレーニングは、さまざまなメリットがあるのです。

では、「話す力」を養う過程で身につけるどのような力が、AI時代を生き抜く上でも有効なのでしょうか。

ここから具体的に、3つの力をご紹介します。

1つ目「問いを立てる力」

1つ目は、「問いを立てる力」です。

「話す力」の授業で、私は、プレゼンや発表で自分の思いを伝えるために、3つの過程を通るとご説明しています。

その過程とは、「広げる(幅広く「イイタイコト」に関連しそうな情報を収集する)」、「深める(問いを立てる)」、「選ぶ(集めた情報を取捨選択し、相手に伝わりやすくなるように整理し、発信する内容を絞り込む)」の3段階ですが、この3つのプロセスで最も重要なのが「深める」こと。

つまり、漠然とした思いを、「私はどうして**がしたいのか」「**の方がより良いと思うのはなぜか」「そういう時は**こそ大事なのではないか」といった具合に、自分の「イイタイコト」を研ぎ澄ましていく作業です。

この「深める」作業でとても重要になってくるのが、「問いを立てる力」です。

どのように問いを設定するか、その問いの立て方次第で、その後の展開が大きく変わるからです。

現時点でAIは、あふれんばかりの情報の中から、どのような問いを立てるのが良いのかを判断することはできません。

2つ目「創造する力」

2つ目は、「創造する力」です。

人類が過去に成し遂げてきたさまざまな発明や発見の中には、もともと世の中に存在していた考え方や情報を組み合わせることで実現したイノベーションも数多くあります。


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ゼロからの創造でなくても、今すでにあるものを掛け合わせれば、新しい価値を生み出すこともできるのです。

「話す力」の授業でも、一人ひとりの個性がもたらす思いやアイデア、着眼点を引き出していきます。

過去の膨大なデータを参照して回答を見つけ出すことを得意とするAIは、現時点では、あまり関連のない要素を掛け合わせることは得意としていません。

意外な掛け合わせを見つけ、新しいアイデアを創造することは、人間だからこその力だとも言えます。

一方、AIを味方につけると、「創造する力」を強化することもできます。

例えば、膨大なデータに基づいたAIの回答をもとに、人間が何度もAIと対話を重ねていくと、考えをより深められます。

『東京都同情塔』で第170回芥川賞を受賞した作家・九段理江さんは、作中で重要な役割を果たすAIの思考や言葉の傾向を探る目的でチャットGPTと対話をし、それを創作に反映した、とインタビューに答え、話題になりました。

AIのデータ処理能力を最大限に活かし、ブレインストーミングや議論の相手にすることで、新たなイノベーションが生まれることも増えていくでしょう。

このような「創造する力」をさらに使っていくことが、常識の殻を打ち破る力となるのではないでしょうか。

3つ目「つながる力」

3つ目は、「つながる力」です。

これは特に、チームや組織などにおいて、各自が強みや個性を発揮しながら、相互に刺激・連携し合い、課題を解決していく力を指します。

「話す力」を使って、自分の思いを伝えることで、まわりに共感が生まれると、「つながる力」が発揮されます。

さらにはそれが、世の中に変化を起こせるような大きなムーブメントとなることもあります。

AIにも共感は可能だという考え方もあるようですが、人間のように、五感を使って感じ合い、つながる力はまだありません。

「話す力」を育てる過程では、思考力、判断力とともに、五感を使っての表現力も身につけていきます。

そして、うまく思いが伝わることで共感を得られる成功体験にも導いていきます。

これらの経験が、これからを生きる子どもたちにとって、AIに呑み込まれないたくましさと、AIをうまく活用していく賢さを養う土台になることと思います。

※本稿は、『話す力で未来をつくる 〜プレゼンアドバイザーが伝える 子どもの思考力 判断力 表現力を伸ばすチャレンジ〜』(WAVE出版)の一部を再編集したものです。