【井手 壮平】地球温暖化を信じない「共和党」支持者たち…政治思想による断絶間近の「アメリカの現状」

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「終わりのない成長を目指し続ける資本主義体制はもう限界ではないか」

そんな思いを世界中の人々が抱えるなか、現実問題として地球温暖化が「資本主義など唯一永続可能な経済体制足りえない」ことを残酷なまでに示している。しかしその一方で、現状を追認するでも諦観を示すでもなく、夢物語でない現実に即したビジョンを示せる論者はいまだに現れない。

本連載では「新自由主義の権化」に経済学を学び、20年以上経済のリアルを追いかけてきた記者が、海外の著名なパイオニアたちと共に資本主義の「教義」を問い直した『世界の賢人と語る「資本主義の先」』(井手壮平著)より抜粋して、「現実的な方策」をお届けする。

『世界の賢人と語る「資本主義の先」』連載第8回

『国際機関が警鐘を鳴らす「大絶滅時代」…全世界で最大「三十億人」が失われる未来がヤバすぎる』より続く

地球温暖化はどこで起きている?

地球温暖化ほどスケールの大きな話を描く場合、どこに現場を求めるのかは簡単なようで難しい問題だ。影響は地球上のおよそあらゆる場所で現れているように見える。

だが、全体として人間の経済活動が温暖化を招いていることは疑う余地がなくても、個々の事象を見ていくと、温暖化のせいであると証明することは時として大きな困難を伴う。少なくとも日本国内では、台風や大雨の深刻な被害がここ数年増えている感覚こそ多くの人々が共有しているだろうが、アメリカカナダのような山火事はまず起きないし、林野庁によると、山火事の総件数も「短周期で増減を繰り返しながら長期的には減少傾向で推移」しているという。

少し前までは定番とされていた海面上昇で沈みつつある南太平洋の島国ツバルに至っては、実は海面上昇による国土縮小どころか、むしろサンゴ礁の成長により国土が拡大しているとの指摘もあるほどだ。

いずれにせよ、これを見れば事態の深刻さが一目でわかるというような現場は意外と見つかりにくい。問題が大きすぎて、人類が進化の過程で培った視野から大きくはみ出しているとも言える。

現実を直視する人、目を背ける人

そんな時、もう一つまったく別の語り方があるということに気付かせてくれた映画がある。アダム・マッケイ監督、レオナルド・ディカプリオ主演の映画『ドント・ルック・アップ』(2021年)だ。ある日突然、地球を目指して宇宙の彼方からやってくる彗星が発見されるというストーリー。人類滅亡の瞬間が刻々と迫る中、危機を避けるための国際協調は成立せず、主にアメリカ人の登場人物たちは結局、彗星衝突という危機の存在を信じる人たちと信じない人たちに分かれて党派的な言い争いに終始する。お金と権力のある人たちは、自分たちだけ助かればいいと、地球外への脱出を計画する。

この場合の彗星とは、明らかに温暖化のメタファーだろう。米国のシンクタンク、ピュー・リサーチ・センターによると、アメリカでは民主党支持者の78パーセントが温暖化を深刻な脅威ととらえているのに対し、共和党支持者ではその割合は23パーセントにまで下がる。本来、政治とは無関係の自然科学の領域に属するはずの話ですら、党派によって分断が進んでいるのが今日のアメリカの病理だが、こうした分断にいつまで日本が無縁でいられるかは予断を許さない。

真正面から危機を訴えることも大切だが、必ずしもすべての人が聞く耳を持ってくれるとは限らない。特に、はじめから見たい現実だけしか見る気がなく、温暖化の脅威も否定したい人たちの目をどう向けさせるか。想像力や創造性の発揮しどころだ。

『「大統領が直接労働者を激励」!? 日本人の想像をはるかに超えるアメリカの「ストライキの実態」』へ続く

「大統領が直接労働者を激励」!?… 日本人の想像をはるかに超えるアメリカの「ストライキの実態」