(写真:Fast&Slow/ PIXTA)

統計的に見て日本の出生数激減(半世紀で6割減少)は「夫婦当たりの子どもの数の微減」よりも「婚姻数激減」(半世紀で6割減少)が主因となっていることは、これまで何度も力説してきました。「カップル成立なくして出生なし」の日本の未婚化の要因を解消していかない限り、日本の人口の未来はないでしょう。

出会ったきっかけを隠したがる司会者

そんな過酷な未婚化状況にある日本で、耳を疑うような話が今年に入ってから飛び込んできました。地元の人なら誰しも知っていて、結婚式をするならここでできたら、という憧れにもなっている、老舗高級ブランドホテルでの出来事です。

若い2人の門出に、とご両親も喜んで支援されたようです。娘さんの披露宴について、ホテル専属司会者に司会をお願いしたそうです。ここで問題が発生しました。司会の女性から「出会ったきっかけを教えてください」と聞かれて、若い2人は「アプリで出会いました」と堂々と回答しました。

ちなみに新郎は医師、新婦は会社員のカップルですが、2人ともアプリで出会えたことにまったく抵抗感を持っていませんでした。ところが、司会の女性はすかさず「すみませんが、出会いは『ご友人の紹介で』に変更してご紹介させていただきますね。うちは老舗ホテルなので、アプリで出会ったような2人が式を挙げるホテル、というのはイメージがよくないので……」などと言い出したそうです。

若い2人もその両親も納得がいきませんでしたが、「ご親族もたくさん来られて、中にはそういった出会いに抵抗がある人もいますから」などと押し切られてしまいました。

しかし統計的にネットを通した出会いは急増しており、今や成婚手段としてトレンド化すらしています。国立社会保障・人口問題研究所が2021年に実施した大規模調査結果(第16回出生動向基本調査)がそれを示しています。


定期的に実施される国の大規模調査で、2018年から2021年にかけて結婚した方に、パートナーとなった方との「出会ったきっかけ」を質問したところ、13.6%が「ネットで」との回答となりました。「友人・兄弟姉妹経由」「職場や仕事関係」「学校で」に次いで第4位にランクインしています。また、第3位の「学校で」の14.1%と0.5ポイントの僅差であり、今や「ネット経由の成婚は、学校での出会い経由の成婚と同程度発生している」ことがわかります。

前回の2015年調査と比べると、「学校で」は14.2%から14.1%と割合にほぼ変化がないのに対して、「ネットで」の回答は6.0%から13.6%へと倍増しています。ですので、約5年先に実施されるだろう第17回出生動向基本調査では「学校で」の成婚割合を「ネットで」が追い抜くのではないかと筆者はみています。また、第2位の「職場や仕事関係」(28.2%⇒21.4%に下落)に迫る割合になるかもしれないとも思います。

出会い系イメージを引きずる中高年

筆者の周りでも、最近は20代の婚活成功者はほとんどがアプリでの出会いです。若い世代の彼らはアプリ特有ともいえる多様な検索機能や推薦機能などの仕組みをうまく利用して、運命の相手に出会っています。皆さん恥ずかしがらずに「アプリがきっかけ」と話してくれます。

しかし、40歳代以上の方では、アプリと聞いたとたんに「ネットは怖い」だけならまだしも「セレブなお嬢様たちは使わないよ」的なニュアンスで語る教育者まで登場します。人口が高齢化してシルバー民主主義リスクが高まる社会においての「浦島太郎状態の価値観」とはまさにこのことだと思います。

日本ではネット経由の出会いについて、最初は「怪しい出会い系」の時代もあったそうですが、令和時代の今となっては、婚活ツールとして発展し、学校での出会いと同割合の成婚が発生するツールとなりました。

そもそも自らが今の時代におけるネット経由の婚活経験もないのに、イメージだけで全否定するような口出しがあったのだとしたら、きわめて恥ずかしいことだと筆者は思います。

未婚化が止まらない日本。「幸せの応援のカタチ」が独善的なモラルの押し付けになっていないのか、いま一度、このホテルだけではなく、再考いただきたいと思います。

(天野 馨南子 : ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー)