内部通報が多い企業ランキング

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内部通報の件数が多い企業をランキング(写真:mits/PIXTA)

企業の不正を防ぐために重要視されている「内部通報」。オープンな会社を見る指標としても注目が集まる。では、この内部通報の件数が多い会社はどこなのか。

今回は『CSR企業総覧(ESG編)』2023年版掲載1702社のうち、相談等を含む内部通報件数を回答している725社(一部公開情報)を対象に上位100社をランキングした。なお、『CSR企業白書』2023年版には200位まで掲載しているので興味のある方はそちらもご覧いただきたい。

日産自動車が2年連続で1位

ランキング1位は2年連続で日産自動車(未回答のため公開情報)。件数はグローバルベースで1764件だ。グローバル行動規範で、役員および従業員が差別や嫌がらせを行うことやその状態を容認することを認めない旨を規定。内部通報向けの「SpeakUp(スピークアップ)」というシステムをグローバルで導入している。


『CSR企業白書』2023年版(東洋経済新報社)。書影をクリックすると東洋経済STOREのサイトにジャンプします

2位はスギホールディングスで1254件。匿名で外部の通報機関に通報し、解決まで連携、対応できる救済メカニズムを構築。店舗事務所内に通報連絡先を掲示し、『コンプライアンス・災害対策ポケットBOOK』を配布するなど周知活動にも力を入れる。国連のビジネスと人権に関する指導原則に基づき、人権方針の策定とデューデリジェンスを実施するといった人権関連の取り組みは幅広い。

3位はアイシンで1038件。社外のステークホルダーからもコンプライアンスに関する相談・通報を受け付けるホットラインを設置。相談・通報では、プライバシー保護、相談者への不利益防止などに配慮しながら事実調査を行うことを徹底している。

4位は1024件でセブン&アイ・ホールディングス。2009年9月から国内連結子会社の全従業員が利用可能なグループ共通の通報窓口を社外に置く。国内外の公務員およびこれらに準ずる者に対する贈り物・接待・金銭的利益を提供することや私的な利益を受けることを禁止。

法令順守は専任部署として、法務部、グループ各社の法務部、サステナビリティ推進部のほか、CSR統括委員会の傘下にグループ横断の「コンプライアンス部会」を置く。

5位は日立製作所の1023件。案件ごとに通報内容の確認を行い、不正が確認された場合は、対象者への指導や懲戒対応など適切な是正措置を実施する。

以下、6位パナソニック ホールディングス638件、7位ヤマトホールディングス634件、8位イオン632件、9位ファーストリテイリング610件、10位AGC560件と続く。

窓口は社外で一括窓口としている37位IHI(263件)と海外のみ設置の80位パーソルホールディングス(126件)以外はすべて社内に設置。さらに多くが社外にも設置している。

適切な内部通報件数はどのくらいか?

ところで、この件数はどのくらいあれば適切なのだろうか。残念ながら一般に使われている基準はない。ただ、2011年度からこのデータを集めてきた経験から、通報できる人数が100人いれば年間1件くらいあることを1つの目安と考えている。

たとえば、1位の日産自動車はグローバルベースの通報件数(1764件)で、連結従業員数13万4111人で考えると、1件当たり76.0人となる。「100人に1件」を上回る水準で通報数は一定レベル以上とみられる。

2位スギホールディングスは連結従業員数に臨時雇用者数を加えると4万5935人。これを通報件数1254件で割ると同36.6人となり高レベルの通報が集まっていると判断できる。

一方で昨年、トラックなどに使うエンジンの排出ガス性能や燃費試験データでの不正が発覚した53位日野自動車。件数は189件(連結ベース)と上位だが、連結従業員数3万4405人で計算すると同182.0件となり、少し劣っているようだ。ただ、5年前の2016年度はわずか通報20件と件数は着実に増えていた。通報しやすい環境にもなりつつあり、問題が表に出やすくなっている。今回が最後のウミ出しとなることを期待したい。

さて、通報件数に対比させる人数選びは実は難しい。件数が単独ベースであれば、従業員も単独にしたほうがいい。また、業種によって臨時従業員数を加えたほうが望ましいケースもある。さらに顧客や取引先などの通報が可能な場合は想定人数を加えるといった調整も必要になるだろう。一律の計算はなかなか難しいが、少なくとも単独従業員数、連結従業員数で計算しておけば、企業のガバナンスを見る際の1つの判断基準にはなりそうだ。

実際の内部通報では「一部の社員が通報とは関係ない不満等をぶちまけるケースも多い」という。社内担当者の負担は非常に大きいようだ。しかし、少しでも気になる点を自由に発言できる環境であれば、早めに問題点が浮かび上がってくる可能性は高くなる。ぜひ通報しやすい環境になるよう各社の積極的な取り組みに期待したい。

1位〜50位


51位〜100位


(岸本 吉浩 : 東洋経済 記者)