東出昌大 撮影/山田健史

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ファイル共有ソフト「Winny」を開発し、その利用者による違法アップロードが続出したことから著作権法違反幇助の容疑をかけられ、2004年に逮捕された開発者・金子勇。金子とその弁護を引き受けることとなった弁護士・壇俊光ら弁護団は裁判で逮捕の不当性を主張するも、第一審で有罪判決を下されてしまう。開発者の未来と権利を守るために、権力やメディアと戦った男たちの実話を基にした物語が、このほど『Winny』として映画化。3月10日に全国公開される。金子勇役で本作の主演を務める俳優・東出昌大に、撮影に向けての取り組みや本作で伝えたいメッセージを聞くとともに、現在の暮らしぶりから俳優としての展望まで語ってもらった(前後編の前編)。

【写真】東出昌大がWinny開発者・金子勇役に挑戦【7点】

──映画『Winny』出演の決め手はどういったところでしたか。



東出 ファイル共有ソフトのWinnyは知らなかったんですが、お話をいただいて「こんな世界とドラマがあったんだ」と関心を持って、出演を決めました。

──東出さんが演じた金子勇さんは実在の人物ですが、演じる上で難しさはありましたか。



東出 金子さんは42歳という若さでお亡くなりになっているので、金子さんを知る方たちにご協力いただきました。遺品を貸していただいたり、お話を伺ったりする時間をたくさん持つことができたので、その体験はこの役を演じる上でとても有難かったです。

──かなり体重も増量されたそうですね。それはそうしてほしいと指示があったのですか。



東出 いえ、してくれとは一言も言われませんでした。最初に金子さんの映像を見た時、話し方や振る舞いに衝撃を受けたんですよ。頭の回転がものすごく速い方なんだろうなと感じました。金子さんは実在の人物で映像も残っていますし、まずはビジュアルから寄せに行いかないと、と思って1カ月で18キロ増量しました。

──どのように作り上げたんですか。



東出 ひたすら食べましたね。最初は筋トレもしていたんですが、筋トレをするとカロリーを消費して痩せてしまうんです。お腹には肉が付いていくんですけど、顔を太らせたかったんですよね。増量する際に、顔が太ってくるのは一番、最後なので、とにかく食べて食べて、という感じでした。

──この規模の体重の調整は今までに経験がありましたか。



東出 いえ、人生初です。松山ケンイチさんが、映画『聖の青春』の時に25キロ太ったそうなんですが、松山さんは「増量の役はいいよ。おおらかになる」と言っていたんです。でも僕にとっては嘘だと思いました(笑)。前にボクサーの役で減量をしたこともあるんですが、増量は減量の4倍はきついです。増量は、まず膝にくる。それから、ずっと血糖値が上がりっぱなしなので、眠くなってしまう。でも台本も裁判資料も、当時の2ちゃんねるの書き込みも読みたい。精神的にきついものがありました。

──撮影が終わったらすぐに元の体重に戻したんですか。



東出 そうです。減量は楽しみでした。太っていると体がしんどかったので。

──東出さんの演じた金子勇さんは魅力たっぷりなキャラクターでした。役作りはリアリティを追求し続けていったのでしょうか。それとも東出さんなりに演出を加えていった部分もあるのでしょうか。



東出 役作りをするというよりも「金子さんになる」という感じでした。すぐ手を組むとか、体を前後(に揺れ)させるとかいう現場での居住まいを、日常的にやるんです。そういう癖は作品が終わってもなかなか抜けないんですよね。「なんか金子さんっぽいことしちゃったな」と思うことは、その後もたびたびありました。

──現場の雰囲気はいかがでしたか。



東出 今の日本映画界は時間がないと言われることも多いですが、怒号が飛び交うようなことは一切ない、穏やかな現場でした。現代とは違う時代背景なので、当時の雰囲気をみんなで頑張って作っていったという感じです。現場に行って、監督と話し合いながら「この方が良いんじゃないか」と台本が変わることもありました。裁判で最終陳述をしゃべるシーンがあったんですが、最初の台本とは全然違うセリフなんです。裁判記録の中に、実際に弁護士の壇さんと金子さんで作った最終陳述用紙があったので、それを引っ張り出してきて、「絶対にこっちの方がいいです」と変えさせてもらうことになりました。

──作品を通して、東出さんは金子さんの人生に対してどのように感じましたか。



東出 金子さんの生家を訪ねたんです。金子さんが子どもの頃に、マイコンを触りたいがために、自転車で走って行った電気屋までの距離を車で走ってみたら、その遠さに驚きました。金子さんのお姉さまが「こんな距離を毎日通ってた」と言うんです。「マイコンを触りたい」という当時の童心を持ったまま、頂があったから登りたい、誰もまだ見ぬ地平に行きたいというようなピュアな方だったんじゃないかなと僕は思いました。「金子さんは誰の悪口も言わなかった」「不平不満も言わなかった」と聞きます。みんなから愛されていた、素晴らしい人物を演じられたなと思いました。

──ご自身の生き方に反映される部分もありますか。



東出 あると思いますね。最近は天然と言われるようになってしまっていますが(笑)、「金子さんになりたい」と思った二カ月があったから、僕自身の人間性にも影響を与えていると思うんです。僕も普段から人の悪口を言わないようにしようと思っています。

──専門用語を早口で言うシーンも多いですよね。かなり大変だったのではないでしょうか。



東出 原理を覚えないと自分のセリフにならないので、P2Pとはなんなのか、クライアントサーバ方式とはなんなのか、というような勉強は結構必要でしたね。

──この作品を世の中に届ける上で、東出さんが伝えたいメッセージとはどういったものでしょうか。



東出 見ていただければ、伝わるものは伝わると思います。でも僕、作品の完成が怖かったんですよ。「良い映画を作りたい」という思いは当たり前にあるんですが、「うまくいっているだろうか」という不安も同時にありました。でも出来上がった映画を見終わった時に、自分でも「良い映画になった」と思えたので、本当に多くの人に見ていただきたいと思います。

【後編はこちら】映画『Winny』主演・東出昌大が語るアナログな私生活「肉がなければ山へ狩りに、薪をひたすら割って」