使いやすい路線のダイヤはどんなポイントがあるだろうか(写真:Graphs/PIXTA)

近年のダイヤ改正は、これまでばらつきがあった列車の運転間隔を一定にそろえて「均等化」を目指すものが増えてきている。日中の運転間隔を改善するケースが多いが、近年は朝ラッシュ、そして夕ラッシュの運転パターンにもメスが入るようになってきた。等間隔であれば、時刻表を気にせず利用できる。

しかしちょっと見落としていないだろうか。単純に運転間隔を均一にしても、実際には後から来る列車に追い越されるなど、目的地に先着する列車が等間隔で走っているとは限らない。実質的に「使える列車」=有効列車だけで時刻表を作ると、運転間隔に偏りがあるケースも多い。

今回は日中のダイヤで何路線かを比較し、利用しやすい路線の条件を考えてみたい。

実は「使える」本数は多くない

東京メトロ東西線を例に説明しよう。東西線で西船橋から都心方面へ行く場合、各駅停車は7〜8分おき、快速は15分おきと一見、きれいにパターン化されたダイヤのように見え、本数も多い。

【平日12時台・東西線西船橋駅発中野方面行き時刻】
<快速>09 24 39 54(15分間隔)
<各停>02 10 17 25 32 40 47 55(7〜8分間隔)

しかし、各駅停車の多くは途中で快速に追い抜かれる。快速運転区間が終わる東陽町から先、大手町などの都心部へ最速で行くのに使える列車は、快速か、または途中で追い抜かれない各駅停車だ。

【東陽町以遠に先着する列車】
09(快)10 24(快)25 39(快)40 54(快)55

これらの列車だけを抽出すると、間隔は1〜14分おきになる。快速とその直後に出る各駅停車のみなので、本数は8本あるものの、感覚的には15分おき4本とあまり変わらない。一見して本数は多く間隔もそろっているように見えるものの、実際に都心部まで最速で行こうと思うと本数は限られ、間隔もばらつきがある。

京成電鉄も同じパターンが見られる。日中の京成線(京成上野―青砥)は普通が10分おき、特急(または快速特急)が20分おきに走っている。下りの普通の半数は京成上野駅・日暮里駅を特急の2分後に発車し、途中で押上線から来る快速に接続する。

このため、京成八幡(京成上野から4つ目の特急停車駅)より先へ行く場合の有効本数は、特急3本と、快速に乗り継げる普通3本の毎時6本確保されている。

【平日12時台・京成上野駅発 特急・快速特急と普通の時刻】
<特急・快特>14 34 54(20分間隔)
<普通>06 16* 26 36* 46 56*(10分間隔)

【京成八幡以遠に先着する列車】
14(快特)16* 34(特急)36* 54(快特)56*
(*:京成高砂で快速に接続)

しかし、京成八幡より先へ行く場合の有効列車だけで時刻表を作ると間隔は2〜18分おきだ。実質20分おき・3本の路線とあまり変わらない。

反対に京成八幡から日暮里へ行く場合、京成上野行き特急と、青砥で普通上野行きに接続する都営地下鉄浅草線直通の快速が交互にほぼ10分おきの運転をしている。だが、快速に乗って青砥で乗り換え、日暮里に着くと2分後に後続の特急がやってくる。それなら特急に乗ってもほとんど同じだ。どうも損したような気がしてしまうのは筆者だけではないだろう。

3:2で噛み合わないダイヤ

大宮と高麗川を結ぶJR川越線は、川越を境に列車の運転が分断されており、大宮から高麗川へ行く場合は乗り継ぎが必要になる。大宮―川越間は20分おきの運転だ。川越―高麗川間もかつては20分おきだったが、利用状況の低迷からか2015年のダイヤ改正で30分おきになった。

一見するとどちらも運転間隔が整ったダイヤに見える。しかし歯車をイメージしてほしい。歯の間隔が3:2の歯車同士が噛み合うだろうか。そんなわけはない。川越線のダイヤはまさにそんな状況になってしまった。


大宮から高麗川へ行く場合、大宮駅発の時刻表はきれいに20分おきだが、高麗川方面へ行く列車にタイミングよく乗り継げる列車は、20〜40分おきと大きくバラつく。40分開くタイミングで乗り損ねたときのショックは大きいだろう。

ちなみに埼京線の池袋以南は20分サイクルの埼京線と15分サイクルの湘南新宿ラインがごちゃまぜになっており、運転間隔の不均衡を生んでいる。音楽に例えるなら、3拍子の曲と4拍子の曲を同時に演奏するとリズムが合わないのと同じ状況だ。

ではどんなダイヤなら、いつでもおおむね平等な待ち時間になるのか。その例を紹介する。

■京王井の頭線

急行と各駅停車合わせて毎時15本を運転する京王井の頭線では、本数を変えずに急行と各駅停車の比率を変えることによってこの問題を解決した。

かつては12分間に急行1本・各停2本が入る形で、1時間当たり急行5本、各駅停車10本の比率だった。各駅停車の半数が途中の永福町で急行に追い抜かれるダイヤで、有効列車(急行と、急行に抜かれない各駅停車)は1〜11分間隔とばらつきがあった。

その後のダイヤ改正で急行も各駅停車も1:1の比率に改められ、基本的に各駅停車はすべて永福町で急行に追い抜かれるパターンとなった。これによって有効列車は急行だけとなり、有効本数は毎時10本から7〜8本に減ったものの、間隔は8分に均一化された。

【平日12時台・井の頭線渋谷駅発時刻】
04(急)05 12(急)13 20(急)21 28(急)29 36(急)37 44(急)45 52(急)53 59(急)

【永福町以遠吉祥寺まで先着する列車】
すべての急行(各駅停車は全列車が永福町で急行に追い抜かれる)

■東急田園都市線

東急田園都市線も、かつて鷺沼から都心へ行く場合は15分間に急行1本と渋谷まで先着する各駅停車1本、桜新町で急行に追い抜かれる各駅停車1本の構成であった。毎時8本ある渋谷への有効列車(急行と、渋谷まで先着する各駅停車)の間隔は1〜14分間隔であった。

だが、その後のダイヤ改正で、二子玉川で渋谷行きに接続する大井町線直通急行が誕生。さらに準急の運転も加わった。これにより各駅停車と急行系列車の本数の比率が1:1になった。

急行または準急だけが渋谷先着列車になり、渋谷へ行く際に有効な列車の間隔は7〜8分おきとほぼ均等になった。

【平日12時台・田園都市線鷺沼駅発時刻】
06(急)07 13(大)15 21(急)22 28(準)29 35(急)36 43(大)44 51(急)52 58(準)59

【渋谷に先着する列車】
06 13(大)21 28 35 43(大)51 58
(大:大井町行き急行、二子玉川で乗り換え)

一定の犠牲はやむを得ない?

■小田急線

小田急線は、以前のダイヤでは急行が毎時4本、快速急行は3本の運転で、快速急行は急行の18分後、かつ後続の急行の2分前に新宿を発車するダイヤだった。これだと新宿から町田方面へ行く場合に使える列車は2〜18分間隔でばらつきがあったが、その後のダイヤ改正で急行は10分おき、快速急行も10分おきになり、いつ新宿駅から乗るにしても無駄に待たされることはなくなった。

さらに複々線の完成によって、朝ラッシュ時は快速急行・各駅停車が5分おき、通勤急行と通勤準急が交互運転で5分おきにそろえられた。各駅停車は1時間最大12本に増え、半数が千代田線直通になった。

融通が効かない部分も出た。新宿行きの各駅停車が1時間最大9本あったのがパターンに合わせるために6本に減らされ、代々木八幡、参宮橋、南新宿の3駅は運転間隔が平均6分40秒から10分に広がった。それでも他の大多数の区間は便利になった。全体最適を考えるなら、一定の犠牲は仕方ないと割り切るのも手という事例である。

■武蔵浦和駅での接続改善

武蔵浦和で接続する埼京線と武蔵野線。武蔵野線は10分おきに対し、かつての埼京線は10分おきだが4本に1本は赤羽で折り返しであったため、ときどき電車が来ない時間帯があった。このため、武蔵野線から埼京線の各駅へ行く人にとっては、1本後の電車でも乗り継ぐ埼京線の電車は同じということがよくあった。

その後のダイヤ改正で大宮―赤羽間の各駅停車は毎時6本に統一され、武蔵浦和以北は10分おき、武蔵浦和以南も8〜12分おきに改善され、どの武蔵野線列車に乗っても埼京線の各駅停車に乗り継げるようになり、武蔵野線各駅から埼京線各駅への有効列車間隔は10分均一に改善された。JR東日本の首都圏区間では数少ない路線間での接続の改善例だ。

【平日12時台・武蔵浦和駅 埼京線時刻】
<大宮方面>08 16* 18(快)28 36* 38(快)48 56* 58(快)
<赤羽方面>01(快)04 12 21(快)24 32 41(快)44 52
(*:当駅止まり・到着時刻)

【武蔵野線時刻】
<西船橋方面 >01 12 21 32 41 52
<府中本町方面>03 13 23 33 43 53

■JR西日本

JR西日本の大阪都市圏は、首都圏に比べると本数は少ないが使いやすさは抜群だ。特急以外の列車は15分ないし30分のサイクルで統一してダイヤが作られており、列車の増便や減便も15分おきか30分おきで調整されている。快速と各駅停車の比率も一部の区間を除いて原則1:1だ。

すべての路線でこれが徹底されているので同一ホーム乗り換えなら待ち時間がほとんどなく、同一ホームでない場合でも、どのタイミングで乗り継いでも待ち時間は均一だ。これだと遅延や乗り遅れが発生しても遅れる時間は15分単位で見積もればいい。

同じJRでもなぜ東日本と西日本でこんなに違うのか。コストの問題を挙げる人をよく見かけるがそれはどの鉄道会社も一緒である。JR東日本はポスターに書いている通り「いちばん乗りたい鉄道会社」を目指す気があるのだろうか。

理想的なダイヤはどんな形か

いかがだったであろうか。いつ乗っても「使える列車」にあたる路線の共通項はこの2点だろう。

●路線間で運転間隔やダイヤのサイクルを統一している。
●緩急(各駅停車と優等列車)の比率を1対1にしている。こうすると間隔の均等化だけでなく、特定の列車への混雑の集中も緩和される。

すでにこの条件に合致する鉄道会社は、本数を変えずに急行と各駅停車の比率を変えたり、急行列車を増発したり、反対に各駅停車の本数を削ったりといった工夫でこのようなダイヤを実現している。

こういった取り組みが広がり、理想的には乗り換え検索をしなくても直感的に使えるようにデザインされたダイヤが普及していくことを願いたい。