「幻滅期」に突入したAI、個人の技術者がチャンスな理由
「日本はすでに幻滅期にある。海外では18年秋からAIは『冬』に入ったといわれてきた」とガートナージャパン(東京都港区)の亦賀忠明ディスティングイッシュト・バイスプレジデントはこう指摘する。ハイプ・サイクルの調査は公式には8月に結果を発表する。ただ前回調査から半年がたち、幻滅期への突入を確実視している。
ハイプ・サイクルは新技術への期待を時系列にグラフ化してまとめる。誇大な宣伝(ハイプ)を見極め、新技術の導入フェーズを探る目的がある。幻滅期では新技術への熱狂が冷めてAIプロジェクトの淘汰(とうた)が進む。AIのユーザーが成功と失敗の双方の経験を積んで、本当の意味での事業への貢献が求められるようになる。
言い換えると、これからが本番という時期だ。産業技術総合研究所人工知能研究センターの麻生英樹副研究センター長は「過剰な期待はいつか必ず冷める。幻滅期の谷をいかになだらかにして渡りきるかが重要だ」と説明する。
ハードルは低下
一方でAI技術を活用するハードルは下がっている。AIのアルゴリズムや学習済みモデルはオープンソースとして流通している。元ソフトウエアエンジニアが実家の農家を継ぎ、ディープラーニング(深層学習)でキュウリの選別機を作成した例もある。今後、個人事業主や中小企業など、より小さな事業者がAI技術を自社の業務に試して、仲間内で経験をシェアする取り組みは広がっていく。過剰な期待が先行している現状では、後発組の方が幻滅の谷を深く急速に落ちていく可能性がある。
ではどうしたらこの幻滅の谷を越えられるのか。亦賀バイスプレジデントは「いま必要なのはシステム投資でなく、人材投資だ」と強調する。AI技術は一度開発したら終わりの完結したシステムにはならないためだ。深層学習などのAI技術は学習用のデータを集めても、その段階ではAIの性能を保証できない。必然的にアジャイル型の継続的に開発し続けるスタイルが求められる。
亦賀バイスプレジデントは「AIには完璧も、完成もない。継続的な改善しかない」という。そのため開発プロジェクトは外部に丸投げせず、社内に人材を抱えたり、育てたりする必要がある。
概念実証の先
人工知能(AI)が幻滅期に突入し、今後淘汰(とうた)が進む見通しだ。現場の改善を目的とするAI活用では小さな成功例はいくつも出ているが、業務改善の概念実証(POC)に一応は成功しても、その後が続かないケースが散見される。経営側が投資を決められるほどの効果が出なかったり、規模を大きくしたりしても相応の効果が得られるかわからないためだ。
「スモールスタートで始めて、スモールエンドで終わっている」とガートナージャパン(東京都港区)の亦賀忠明ディスティングイッシュト・バイスプレジデントは指摘する。今後は事業全体に波及させる戦略が欠かせなくなる。中長期の人材育成を含め継続的に取り組む必要がある。
AIベンチャーにとってはPOCの先に進めるかどうかは重要な問題だ。LeapMind(リープマインド、東京都渋谷区)の松田総一社長は「顧客には無理に深層学習を使う必要はないと説得している。もっと簡単な技術で済む場合はそちらを薦める」という。同社は深層学習の計算量を圧縮して、飛行ロボット(ドローン)やカメラなど計算資源の限られる端末(エッジ)でも深層学習を使えるようにする技術をもつ。商品である深層学習を無理にでも売り込まないのは、POCが成功してもその先が期待できないためだ。「事業化するなら、できるだけシンプルな手法が良い。無理に推さなくても、深層学習のエッジ適用は大きな市場がある」と説明する。
