飛行機の離着陸を支えるタイヤ、一見クルマのそれが大きくなったもののようですが、実はほとんど別物です。なにが違うのでしょうか。

航空機の巨体を支えるタイヤ

 飛行機の離着陸にはタイヤが欠かせません。高速で離着陸を繰り返し、重量が数百トンにもなる旅客機を、タイヤは支えます。そのような衝撃に耐えうる航空機用のタイヤとはどのようなものなのでしょうか。


離陸する全日空の787-8 ドリームライナー。離陸時にもタイヤは大きな摩擦を受ける(2017年、石津祐介撮影)。

 まずそのサイズですが、ひと口に航空機用タイヤといっても、機種や前脚、主脚かにより大きな違いがあります。

 たとえばボーイング767-300シリーズの主脚用タイヤのサイズは、46×18.0 R20と表わされ、順に外径×幅 構造(R=ラジアル)・リム径を表します。単位はインチですので、外径は約116cmになります。一方、小型機の737-800の前脚用タイヤは27×7.75 R15で、外径は約67cmと、機体サイズに比例し767に比べ約半分のサイズで、一般的な乗用車用タイヤとさほど変わりません。

 なお、上記「構造」の部分に「ラジアル」とありますが、これは昨今の主流で、これまでは比較的衝撃に強くトラクション性能に劣るバイアス構造のものも広く使われてきました。

 航空機タイヤのメーカーは、国内メーカーではブリヂストンや横浜ゴム、海外メーカーではミシュランやグッドイヤーなどが挙げられます。

耐える衝撃が大違い、空気圧はクルマ用の5倍以上!

 大型旅客機を代表するボーイング747-400は、機体の重量が主翼だけでも約43tあり、乗客、燃料、貨物を満載にすると約397tにもなります。それを支えるタイヤは、主脚に16本、前脚に2本、計18本を備えており、1本あたりの重量は120kg、タイヤだけでも2t以上あります。


着陸する日本国政府専用機747-400。合計18本のタイヤで着陸の衝撃に耐える。(2017年、石津祐介撮影)。

 機体は、離陸時には約290km/h、着陸時には約260km/hの速度となり、このスピードで滑走路に接地するわけですから、タイヤにかかるエネルギーは相当なものになります。これを支えるためにタイヤの空気圧は高めに設定されており、その数値は1200〜1400kPaと、乗用車の平均的な空気圧の250kpaと比べて5倍以上の高圧です。そして素材の酸化防止や火災時の爆発リスクが抑えられるという理由から、充填には乗用車にも普及している窒素ガスが利用されています。


スイスのマイリンゲン基地にて、滑走路に残ったタイヤ痕。離着陸の度にタイヤが磨耗するのは軍用機も民間機も同様(2017年、石津祐介撮影)。

 航空機のタイヤはまた、温度差の激しい状況にもおかれます。離着陸時の摩擦でタイヤの表面温度は400度以上になり、また飛行中は高度1万mに達すると外気温がマイナス45度にもおよび、格納されていても相応の冷気にさらされます。そうした過酷な環境や、先述のような激しい衝撃に耐える素材、構造が採用されているのが航空機用タイヤで、クルマタイヤとはずいぶん異なるものです。

運用も航空機ならでは 「リトレッド」とは?

 さらに、その運用もクルマとは少し異なっているといえるでしょう。航空機用タイヤは離着陸の度に摩耗し、グルーヴと呼ばれる表面の溝がなくなると交換されます。747-400であれば約200回程度の離着陸で交換となります。


767-300の前脚タイヤ。グルーヴと呼ばれる溝が入っている(2017年、石津祐介撮影)。

 交換といっても新品に交換するわけではなく、トレッドと呼ばれる接地しているゴムの部分を交換する「リトレッド」を行い再利用します。リトレッドは通常であれば5〜6回程度行われるので、タイヤ1本あたり1000回以上の離着陸を耐えることになります。

 なおこのグルーヴ(=タイヤの溝)ですが、旅客機の場合、クルマと異なり特に夏用、冬用といったものはなく、年間を通して同じタイヤが使用されています。

 ちなみに、航空機用タイヤもパンクします。

 先ほど述べたように、航空機用のタイヤには強い空気圧がかかっており、着陸時の衝撃に対して強度が保たれています。またタイヤ自体も最新のラジアルタイヤは、異物を踏んでもダメージを受けにくい多層構造になっています。また大型機では、主脚のタイヤ数を増やすことによって衝撃を分散させています。

 このようにタイヤ自体のパンクのリスクは低いのですが、滑走路に落下したパーツを踏んだケースや、ブレーキやギアの故障で予期せぬ衝撃でタイヤが破損するケースは稀にあるようです。

[11月26日12時50分追記]記事に1部、記述の誤りがありました。訂正しお詫びいたします。