クルマのハンドルを握る位置に関する教習内容が、かつてとは変わっています。「10時10分」から何時何分になったのでしょうか。またそこにはどのような理由があるのでしょうか。

じつは決まっていない「10時10分」

 クルマのハンドルは水平よりもやや上、時計の針でたとえると「10時10分」の位置で握るというのは、もはや古いお話かもしれません。昨今、この位置よりももっと下の「9時15分」、あるいは「8時20分」くらいの方がよいという声も聞こえます。現在、自動車教習所ではどのように教えているのでしょうか。


ハンドルを握る位置は正しいのか。画像はイメージ(画像:写真AC)。

 平和橋自動車教習所(東京都葛飾区)では、「9時15分から10時10分のあいだ」と教えているそうです。「ドライバーの体形により多少位置は異なってきますが、正しい運転姿勢に調整すれば必然的にこのあたり位置になりますし、とっさの危険回避にも素早く対応できるポジションです」と話します。

 フジドライビングスクール(東京都世田谷区)の田中さんは、「ハンドルの握る位置をどう教えるかは、教習所間で厳密に決まっているわけではありませんが、少なくとも『10時10分』がベストとは言い難い」といいます。

「パワーステアリング(油圧などでハンドル操作を補助する機構)がなかったころのクルマは、いまよりはるかに重いハンドルをたくさん回さなくてはならなかったので、力の入りやすい『10時10分』がよかったのです」(田中さん)

 ちなみに右ハンドルのMT車における、ハンドルの握り位置について田中さんは、「(シフトレバーを操作する)左手はやや下にあったとしても、右手はハンドルの横か斜め上、つまり15分から10分の位置に置き、いざというときに片手でハンドルを半周くらい回せるようにしておきましょう」と話します。

 では、ハンドルから手を離す必要がほとんどないAT(オートマチックトランスミッション)車における、ベストなポジションは何時何分といえるのでしょうか。

ベストは何時何分なのか 「9時15分」より下もアリ?

 前出の田中さんは、「基本的には」と断ったうえで「『9時15分』がよい」といい、「安定していて、かつ直進時の微調整もしやすいです。パワーステアリングが当たり前に装備されている現在のクルマではむしろ、ハンドル操作の正確性が重要でしょう」と話します。

「一方で、心臓より高い位置に手を置くと腕が疲れやすく、片手ハンドルになりがちであることから『9時15分』のほうがよいという話もありますが、これは絶対というわけではなく、背の高い人などは『10時10分』のほうが楽かもしれせん」(田中さん)

「9時15分」より下の位置については「とっさの操作はしにくくなりますが、見通しのよい高速道路を長く運転する場合などには楽です。カーレーサーのなかには、高速道路ではやや下をもって、ハンドルを回さないようにするという人もいる」(田中さん)といいます。平和橋自動車教習所は、「ハンドルの口径が大きいトラックでは、ハンドルの上部まで手が届かない人もいますので、少し下側を持つほうがよい場合もあります」としています。

 ちなみにクルマメーカー側は、ハンドルのどの位置を握るよう想定しているのでしょうか。ある乗用車メーカーは、「基本的にはハンドルの下方ではなく、教習所で教えている位置を想定しています。スポーク(ハンドルの外枠を支える支柱)のスイッチ類も、そのように配置されています」と話します。

 一方、大型トラックやバスなどを扱ういすゞは、「メーカーとして、ハンドルを握る際に推奨する位置というものは特にありません。ただ、トラックやバスのハンドルは多くの場合、ややフロント側に傾いた形で取り付けられていますので、乗用車とは感覚が異なってくるでしょう。持ちやすいところで持ってもらえればよいと思います」としています。

【図】「10時10分」とは? ハンドルの握る位置おさらい


ハンドルをアナログ時計に見立てたイメージ(乗りものニュース編集部作成)。