ネット漫画『映画大好きポンポさん』こんなの無料でいいのか(泣きながら)創造の喜びが拡散して止まらない

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無料コミック『映画大好きポンポさん』が素晴らしい! と話題だ。
いや、ホントに素晴らしい! 
136Pの中編(ネットコミックとしては長編)だが、一気に読ませる。
ぐいぐい引き込まれて、何度も胸が熱くなる。
ツイッターでも「すごく面白い!」「この漫画に出会えてよかった」「鳥肌たった」と絶賛の嵐だ。


作者は「人間プラモ」という人。Pixivにコミックやイラストを発表しているが、詳しいプロフィールは不明。プロの変名なのかもしれない。
『映画大好きポンポさん』は4月4日に発表されたばかりの作品。
こんなの無料で読ませてもらっていいのかな?
たぶん、もう出版社から書籍化オファーが何件も届いていると思う。

タイトルだけを見ると『木根さんの1人でキネマ』のような映画ファンについてのマンガのようだがそうではない。
驚くべきことに、映画の都・ニャリウッドを舞台にした堂々たる映画制作にまつわるマンガなのだ。

キャラクターをプロファイリング


登場人物は、それほど多くはない。
ジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット(通称ポンポさん)は少女のようなルックスだが、映画作りに必要は才能をすべて持ち合わせている敏腕映画プロデューサー。
ポンポさんの祖父がジョエル・ダヴィドヴィッチ・ペーターゼン。すでに引退した大プロデューサーで、強力なコネクションを持つ。
実質的な主人公なのが、ポンポさんのアシスタントをしながら映画監督を目指す気弱な青年のジーン・フィニ。
そして、田舎から出てきた女優志望の少女、ナタリー・ウッドワード。
あとはセクシーな若手人気女優のミスティア、伝説の名優マーティン・ブラドッグ、職人監督のコルベット。
以上7人がメインキャストだ。
それぞれ好きな映画が3本ずつ挙げられているので、それを見てキャラクターをプロファイリングするのも楽しい。

彼らが一丸となって映画制作に取り組み、ジーンとナタリーは夢に向かって邁進する。
物語はそれだけだ。きわめてシンプル。
だが、テンポの良さも相まって、ものすごく高揚感がある。
それでいて絵が可愛らしく、気持ちよく読める。

ポンポさんの才覚、ジーンの努力と恍惚、ナタリーのひたむきさ、ペーターゼンやブラドッグの大先輩としての振る舞い。すべてが気持ち良い。

なによりこのマンガが気持ち良いのは、創造の喜びに満ち溢れているところだ。
誰もが映画を作ることに夢中で、共鳴しあっている。
映画を作りながら、ゾクゾクして、ワクワクして、ビリビリきている。
「映画大好き」なのはポンポさんだけではない。登場人物全員が「映画大好き」なのだ。
ビジネス的な視点とか、マーケティングとか、そういうものとは真逆の場所にこの人たちはいる。
ほら、すぐにヒット作をマーケティングで語ろうとする人っているじゃない? ああいうのってものすごくつまらない。

ジーンの目はティム・バートン監督が描く自分の分身(オイスターボーイやステインボーイ)そっくり。ジーンもティム・バートンも、現実と折り合いがつかず、映画の世界に生きる場所を求めてやってきた人間だ。

これは邪推なんだけど、作者はティム・バートン、あるいはジョー・ダンテのファンなんじゃないだろうか。ジョー・ダンテは(ポンポさんとコルベットのように)大プロデューサー、ロジャー・コーマンとともに『ピラニア』や『ハウリング』などのB級娯楽作を連発した。自らの若い頃を投影したと思しきコメディー『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』に登場するB級映画マニアの主人公の名前はジーンである。

創作・創造の楽しさのトリコに


それはさておき。名ゼリフも多いぞ。
ポンポさんのセリフのみ、いくつか抜粋してみた。

「幸福は創造の敵」
「心の中に蠢く社会と切り離された精神世界の広さと深さこそが その人のクリエイターとしての潜在能力の大きさだと私は確信しているの」
「自分の直感を信じないで 何を頼りに映画を撮りゃいいのよ・・ってね」
「物作り目指してる人間が普通なんてつまんない言葉使ってんじゃないわよ」

作中の映画のクライマックスとマンガのクライマックスがシンクロする場面の演出は、おおっ! となった。本当に鳥肌もの。
オチも気が効いている。

映画だけでなく、物作りに携わっている人、物作りに携わることを目指している人は街違いなく必読。
そうでない人も、この作品を読めば、創作・創造の楽しさのトリコになってしまうかもしれないね。
(大山くまお)