<メーカーが「自動車ではない」と言い張り、開発・販売し続ける「老人用代走車」。ブラックな魅力が人気で、影響力の強いCCTVの特番に攻撃されても生き残っている。これぞ中国型イノベーション。ここから未来の自動車メーカーが誕生するかもしれない> (写真:中国のネットショッピングサイト「タオバオ」で販売されている老人用代歩車。画像を一部修正しています)

 電動車椅子が時速100キロで道路を爆走していた......しかも4人乗りだった......というか外見はランドローバーそっくりだった......。中国の不思議な「老人用代歩車」の存在は中国型イノベーションとはなにかを率直に物語っている。

 中国中央電視台(CCTV)は2014年3月15日の世界消費者権利デーの特番で、「老人用代歩車」問題を取り上げた。老人用代歩車とは読んで字のごとく「歩く代わりに乗る車」の意。英語でいう「Mobility Scooter」、日本語で言う「シニアカー」「ハンドル型電動車椅子」を指す中国語だった、もともとは。

 ところがメーカーは「これは老人の足代わりのツールでして。自動車ではございません」と言い張りつつ、次々と大型化、高速化した電気自動車を開発。「時速100キロで走る4人乗り電動車椅子(自称)」という珍品が次々と販売された。こうした代歩車を作るメーカーは、大半が町工場レベルの中小企業だ。普通の自動車とは異なり、電気自動車の開発・製造に必要な技術レベルは低いためだという。大手になると年間5000台を製造しているのだとか。統計がないため生産台数は不明だが、メーカーの数は無数にあるため年数万台レベルで製造されている可能性が高い。

免許も保険も不要の「走る凶器」

 また「観光車」というカテゴリーもある。もともとは「公園や大学キャンパス内で使うミニバス」のカテゴリーだが、明らかに乗用車にしか見えないものを観光車だと言い張って販売している。驚くべきは「内燃エンジン型観光車」の存在だ。実は大手中国メーカー製品のエンブレムだけを取り替えたという正真正銘の一般自動車だが、観光車だと強弁して販売する行為が確認された。

 代歩車も観光車も一般自動車ではないので、運転免許もナンバープレートも自動車保険も不要。まさに"走る凶器"だ。北京市当局によると、2011年から2013年10月までに北京市だけで代歩車関連の事故が757件発生し、136人が死亡したという。

 この代歩車について、自動車レビューサイト「易車体験」は試乗体験動画を公開しているのだが、これが爆笑ものだ。2万元(約31万円)するというその車は、軽自動車を一回り小さくしたような外見だが明らかに自動車で、「シニアカー」「ハンドル型電動車椅子」とはほど遠い外見をしている。

 走らせてみると、ハンドルはねじ曲がった角度で固定されているわ、サスペンションなしですさまじくガタガタするわ、バッテリー残量表示はいい加減だわ、代歩車用タイヤは修理店にないためにパンクすると修理しようがないわと問題が続出。あまりのすさまじさにコメンテーターは怒るどころか、「笑える車」と結論づけていた。ネットユーザーのコメントも「2万元でこんなゴミは要らないだろ」との声が圧倒的だ。

易車体験のレビュー

高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)