【2014年MLBニューカマー@打者編】

 好調なチームの影には、必ず勝利に貢献した「救世主」の存在がいます。その中でも特に喜ばしいのは、その救世主が昨年までほとんど知られていなかった無名選手だったケースです。そこで今回は、開幕から驚異的な活躍を見せて話題となっている「ニューカマー」を紹介します。

 ア・リーグ最大の激戦区と言われている東地区で、故障者を多く抱えるニューヨーク・ヤンキースが好調をキープしています。その最大の功労者は、5月25日現在、すでに7勝(1敗)をマークしている田中将大投手と言って間違いないでしょう。ただ、打撃面で最も勝利に貢献した選手は、ルーキーのヤンガービス・ソラーテではないでしょうか。

 ソラーテはベネズエラ出身の26歳で、2005年にプロ入りしたスイッチヒッターの選手です。ただ、昨シーズンまでのプロ生活9年間は、ミネソタ・ツインズやテキサス・レンジャーズの下部組織でくすぶっていました。しかし今オフ、ソラーテに転機が訪れます。今年1月にヤンキースとマイナー契約を結び、キャンプにテスト参加することになったのです。当初、ソラーテは内野のユーティリティとして期待される程度のポジションでした。背番号も「89」と、まさにテスト生のひとりという扱いです。しかし、キャンプで結果を残して25人のメンバーに選ばれると、開幕から予想もしなかった大活躍を見せたのでした。

 開幕と同時に背番号が「26」に変更されたソラーテは、薬物問題で出場停止処分を受けているアレックス・ロドリゲスに代わる三塁手を務め、ときには移籍したロビンソン・カノ(現シアトル・マリナーズ)の抜けた二塁手としてもプレイ。4月17日のタンパベイ・レイズ戦ではトリプルプレイを完成させるなど、内野に欠かせない一員にまで成長したのです。

 また、ソラーテのすごさは守備だけではありません。開幕からヤンキースの強力打線を牽引し、現在打率.306・9本塁打・25打点をマークしています。ジョー・ジラルディ監督は、「これほどの活躍はまったく予測できなかった」と大絶賛。攻守ともに大暴れしており、ヤンキースファンを大いに喜ばせています。ヤンキースにとって「投」の救世主が田中投手なら、「打」の救世主はソラーテで間違いないでしょう。

 続いて紹介したいニューカマーは、ア・リーグ中地区のツインズに所属するクリス・コラベロという一塁手です。現在30歳のコラベロは、メジャーにやってくるまで数々の苦労を重ねてきました。独立リーグで7年間プレイし、2012年にツインズと念願のメジャー契約。ただし、その年もダブルAでの出場のみに留まりました。2013年は第3回ワールド・ベースボール・クラシックのイタリア代表に選ばれ、さらに5月22日にはメジャーデビュー。ようやく日の目を見るかと思いきや、打率.194と低迷してほとんど活躍できませんでした。

 そんな折、コラベロは韓国のプロ野球界から年俸100万ドル(約1億200万円)の高額オファーを受けることになります。結果の残せないコラベロとしては、非常に魅力的なオファーだったことでしょう。しかし、コラベロはメジャーでの成功を信じ、韓国行きを断ってツインズに残留することを決めたのでした。

 そのコラベロの決断は、見事に実を結びます。2014年、ツインズの開幕メンバーに選ばれると、いきなり第1週(3月31日〜4月6日)に大暴れ。リーグトップの11打点を叩き出し、ロサンゼルス・エンゼルスのジョシュ・ハミルトンとともにア・リーグ週間MVPに選ばれたのです。その後もコラベロは打ち続け、18試合で打率.353、出塁率.397という好成績を残しました。

 5月に入って成績は下がりつつありますが、今シーズン序盤の最大のサクセスストーリーといえば、間違いなくコラベロの大ブレイクです。彼の活躍によって、近年低迷していたツインズはア・リーグ中地区で現在3位をキープ。コラベロの存在なくして今シーズンのツインズの躍進は語れません。

 そして最後は、ナ・リーグ西地区のコロラド・ロッキーズに所属するチャーリー・ブラックモンという27歳の外野手を紹介しましょう。2008年ドラフト2巡目(全体72位)でプロ入りしたブラックモンは、入団当初から若手有望株として注目されていました。ただ、2011年にメジャーデビューするものの、何度もマイナー降格を繰り返し、昨シーズンまでは控え外野手のひとりというポジションだったのです。

 しかし今シーズン、レギュラーに抜擢されてホーム開幕戦に出場すると、6打数6安打と大爆発。二塁打3本、ホームラン1本、1試合5打点という活躍で、いきなり全米中に名を知らしめたのです。その後も好調は続き、4月27日まで打率4割をキープ。現在はナ・リーグ8位の打率.319、同11位タイの9本塁打、同5位タイの33打点と、主要打撃部門でいずれも上位に名を連ねています。

 また、ブラックモンはパワーだけでなくスピードも兼ね備えており、リーグ9位タイとなる9盗塁をマーク。不動の一番バッターとしてロッキーズ打線を牽引しており、打率.375で首位打者のトロイ・トゥロウィツキーとともにナ・リーグMVP候補と言われています。

 現在、ロッキーズはナ・リーグ西地区でサンフランシスコ・ジャイアンツに次ぐ2位をキープしています。開幕前の下馬評が悪かっただけに、この躍進は衝撃です。今シーズンのロッキーズは、トゥロウィツキーが三冠王に迫る活躍を見せていたり、昨年ゴールドグラブ賞のノーラン・アレナド三塁手が球団新記録となる28試合連続ヒットを記録するなど、驚くことばかり。次はどんなニューカマーが生まれてくるのか、とても楽しみです。

福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu