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トヨタ自動車労使は2018年の春闘交渉で、正社員のベースアップ(ベア)に相当する賃金改善分の具体的な金額を非公表とした。グループ会社がトヨタ本体の水準を上限として賃上げ交渉を進める慣行を改めるのが経営側の狙いだという。

ただ、ベア額の非公表が広がれば、業界内で共闘して回答を引き出すという従来型の戦術が通用しなくなる可能性もある。非公表を受け入れたトヨタ労組の判断に批判も出ている。

会社側の回答は、パートや期間従業員なども含む

組合側の要求は、ベア3000円に、定期昇給分7300円を加えた計1万300円だった。率に直すと約2.9%。これに対し、会社側が2018年3月14日に示したベアの正式回答は「昨年(1300円)を上回る」としたのみ。明らかにしたのは「3.3%」という賃上げ率で、具体的なベアの金額は一般組合員には明らかにされなかったという。

賃上げ率は組合側の要求を上回るようにみえるが、実はそうではない。組合側の要求が、正社員限定で算出した数字だったのに対し、会社側の回答は、パートや期間従業員なども含む。パートや期間従業員に手当などの形で手厚く配分した結果、全体では3.3%になった。トヨタにとっては約100億円の負担増になるという。

正社員か非正規社員かという雇用形態がどうであれ、同じ仕事をした人には同じ給料を支払う「同一労働同一賃金」の重要性は労使ともに理解している。その意味で、パートや期間従業員に手厚く配分した今回の回答は、組合側も評価できる内容だ。

「水準感」が分からないまま交渉することに

また、トヨタ本体を頂点とするグループ内のピラミッド構造で、賃上げ額でもトヨタ本体がリードする形になると、グループ内の格差はますます広がってしまう。ここ数年は「格差解消」が重要なテーマの一つとなっていた。トヨタ本体を気にせずに、グループ会社の労使が会社の将来を真剣に考え、各社の実力ベースの回答を引き出す効果があるなら、ベア非公表にも意味があるのかもしれない。

しかし、非公表は副作用も大きい。最大の問題は共闘の力が薄れることだ。非公表がトヨタ本体のみにとどまれば、まだ傷は浅いが、日産自動車も、ホンダも、マツダも――と広がっていけば、それぞれ「水準感」が分からないまま交渉することになる。

自動車業界は国内産業を牽引し、春闘においても相場形成の役割を担っている。非公表が自動車業界だけにとどまらず、電機や鉄鋼、小売りなど、幅広い業界に広がれば、交渉はまったくの手探りとなり、労働組合全体の弱体化が一層進みかねない。

自動車産業全体の労組でつくる自動車総連の高倉明会長は記者会見で、「共闘という観点で問題があった」と非公表を批判した。それでもトヨタは2019年以降も非公表を続ける方針だ。18年春闘は、「共闘崩壊の起点だった」と将来、評価されるのかもしれない。