営業は、ズルでスマートな「同調圧力」が9割

写真拡大

■「周囲」に置き去りにされる恐怖感

妖怪ウォッチの流行が「大人」にも広がりつつある。

ひとつのブームが巻き起きると、我々はそれに無関心ではいられない。多くの人がブームに乗ろうとする。こうした行動をとる理由は何か? そのひとつは、好奇心旺盛さだけでなく、人と違うこと(流行を知らない、など)をして奇異な目で見られるよりも、周りと合わせた方がストレスなく日々の生活を送れる、ということがあるのではないか。

「他人(時代)に置き去りにされる」という恐怖感や、「周囲と異なる環境にいる」という孤立感を、無意識的に回避している。

いわゆる同調行為だ。

この行為自体は決して悪いことではない。だが、こうした傾向の強い人は、どうしても詐欺や悪質商法の罠にかかりやすくなる。

業務停止の行政処分を受けた悪質業者は、さも管理会社から依頼されて来た点検業者のフリをして古い団地に長年住む中高年宅を訪問していた。

「今、お使いになっている換気扇は古い型で、製造が廃止になる予定です。ですので、これから先、壊れた場合には取り替えられなくなりますよ」

もちろん、製造廃止の話などまったくの嘘である。業者は住人の不安を煽り、次のように畳み掛ける。

「他の棟の住人は既に取り替えていますよ」

その話を聞いた住人は周りも取り付けているという安心感から、1万5000円の換気扇を購入してしまう。

詐欺や悪質商法では、「周りの人もやっているから、あなたもした方がよい」と言って、契約を迫ってくる。これはバンドワゴン効果と呼ばれる、人はたくさんの人に選ばれている情報を耳にすると、多くの人もやっているという安心感から、そのことへ同調しようとする意識が働いてしまうもの。

■「やんわりとした脅し」が効果絶大

ただし、ビジネスにおいては、この「周りもやって(買って)いますよ」という営業トークだけでは、肝心な契約の現場では、「押しが弱い」とみなされることも多い。

それは悪質商法も同じで、ある換気扇の業者は、次のような手も使う。

マンション管理会社を装った業者は、引っ越して間もない人の家を訪れる。そして、換気扇の点検をしながら、「換気扇のフィルターを取り付けた方がよいですね」という。

その理由として、こう語るのだ。

「このまま放っておくと、換気扇が油まみれになり、油が料理にも混じって、体に害を及ぼすことになる。また、その汚れが原因で、ゴキブリも大量発生して、マンション全体の不衛生につながります」

そして、こうも付け加える。

「このフィルターを取り付ければ、換気扇が汚れません。ここのマンションの人は全員、このフィルターを買ってくれていますよ」

冷静に考えれば、全員買っているわけがないのに、これを聞いた住人は、「周りの人に迷惑をかけてはいけない」との思いから購入してしまう。

業者は「周りの人々もやっている」理由にまで、踏み込み、周辺に与える影響を強く意識させて、決断を促すのだ。

この手法は、霊感商法でもよく使われており、霊能者や鑑定士を名乗る人物が家系図を取りながら、病気や事故でなくなった人を家族や親族などの状況を聞き出して、「あなたが信心深くないと、あなた自身だけでなく、周りの人が悪因縁で次々に病気や事故に遭ってしまうかもしれない」と話す。

これを聞いた人は、「愛する人たちに不幸なことが起こってはいけない」との思いから、因縁を払うための商品を買うことになる。こうした手口には、周りを気遣う優しい人が騙されてしまいがちになる。

■「周囲に迷惑かける」のを嫌う心理

ビジネスにおいても土壇場で契約しない客に対して、その人の周辺事情に目を転じて、話を切り替えてみると、契約成立する糸口が出てくることが往々にしてある。

一番わかりやすいのは、保険などの勧誘であろう。

本人が今、とても健康であっても、もし病気や事故などに遭えば、周りの家族に迷惑がかかることになる。そこでその万が一の時に備えて多少の負担にはなるが、お金を払い、生命保険に入る。火災保険や、地震保険なども同じことである。

塾なども「入会」を契約をするにあたって、まず体験授業などで子供のやる気を出させ、それから「お子さんはとてもやる気になっています。入会しないとせっかくのやる気をそいでしまいます」と、親への説得にあたる。あるいは、その逆で子供が乗り気でなければ、親に子供の学力不足を指摘しながら、塾通いの必要性を説き、その後に子供に学習意欲を促す。

この周辺事情に目線を変えて説得することは、同調行為を重視しがちな日本人には、極めて効果的な手法となるのである。

(ルポライター 多田文明=文)